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お互い忙しくて、すっかり司法修習後にしようと言っていた結婚式をしていないと気付いたのは、常連のお客様から、
「ウェディングドレス決まったんやけど、どんなヘアスタイルがいいと思う?」
と聞かれた時だった。
お客様の決めたウェディングドレスの写真をスマホで拝見する。
「よくお似合いですね」
「ホンマに?嬉しい~」
俺はめちゃめちゃ大事なこと忘れてたじゃんと、内心焦った。
「結婚式忘れてた?そんなことある?」
千穂さんに失笑された。
Blanc purのバックヤードでテーブルの前でパイプ椅子に座って二人で両店舗の売上確認をしていた。
タブレットとパソコンを開いて、年度末の細かい経理作業。
「司法修習終わったらしようって言ってたけど、真白は弁護士になってからの方が間違いなく大変そうだし、俺は俺でPetitの準備に追われて…」
「それで忘れてたん?」
「真白も忘れてると思う?」
頭を抱えて問い掛ける俺に千穂さんは、
「いや、忘れてへんやろ」
と一言。
俺は項垂れる。
「だよな。俺、最低だよな」
真白から“結婚式どうなってんの?”なんて俺に聞きにくいに決まってる。
「毎日時間が経つのが早すぎで、しかも幸せすぎてすっかり抜け落ちてた」
「惚気かいな」
「違うっ!」
この話のどこに惚気があるんだ。
「まぁ、真白ちゃんが12月に弁護士さんになって、2月にPetitオープンさせて、怒濤やったからなぁ…」
「真白、がっかりしてるよな…」
俺が肩を落としていると、
「結婚式、別にせんでもいいと思ってるんちゃう?」
と問い掛けられた。
「したいよ!」
俺は思わず言うも、
「ボスちゃうやん」
と呆れられた。
「真白ちゃんやん」
「えっ?」
「真白ちゃん、別に結婚式せんでもいいと思ってるんちゃう?」
「真白がそう言ったの!?」
千穂さんに詰め寄る。
「いや、何も聞いてないけど。何となくそんな気がして…」
「なんで!?」
「えっ?したかったら、それとなく言うんちゃうかな?」
そう問い掛けられて、俺は真白がどう思ってるのか想像してみた。
「………Petitオープンさせて、金の話してたから、遠慮させたかも」
思い当たることを考える。
「それかもね」
「マンションの出費も真白心配してた」
「あぁ、それでかもね」
もう一度頭を抱える俺。
「結婚式遠慮させるとか、俺、ヤバくない!?」
「ヤバいね」
千穂さんはストレートに俺を抉る。
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