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俺はその日、早目に家に帰って夕食を準備して真白の帰りを待った。
帰宅した真白は俺の在宅に驚く。
「あれ!?恭ちゃん、早いね」
「今日は早く帰って来たんだ。ご飯にする?お風呂にする?」
定番の質問に真白は笑う。
「いい香りがするっ、夕食作ってくれたの?」
玄関から廊下を進み、リビングダイニングへ。
ダイニングテーブルに用意された夕食を見て、真白は歓声を上げた。
「カナッペ?生ハム?…何のお祭り?」
そう問い掛けてくる。
「お祭りって」
思わず笑ってしまった。
「クリームシチュー作ってるよ」
「ありがとう!先に頂く!手洗いしてくるね」
荷物や上着を置いてパタパタと洗面所に行った真白。
俺はキッチンの鍋に火をかけた。
二人でラウンドのダイニングテーブルに座り、夕食のクリームシチューを食べる。
「美味しーっ。幸せ」
嬉しそうに真白が言ってくれた。
帰宅して必死で作った努力が報われた。
「真白…」
美味しそうに食べる真白に、例の話を切り出す。
「結婚式、やらないか?」
俺の突然の話に、真白はキョトンとした。
「あっ、仕事のことや引っ越しでバタバタしてたから、俺、うっかりしてて!司法修習が終わったら結婚式しようって言ってたのに」
おしぼりで口元を拭く真白。
「ごめんな!」
謝る俺に真白は首を横に振る。
「恭ちゃん」
「うん!?」
「結婚式…なくてもいい気がする」
ドンピシャで当ててきた千穂さんの予測。
「な、なんで!?」
「う~ん…もう入籍して1年以上になるし、お店も広げてお金掛かってるし、マンションだって―」
まさかのまさか、本当に予測通りで頭がクラクラする。
「待って、真白!」
前のめりで真白の話を止める。
「お金の心配してるの?確かにここ最近かなりのお金が動いたけど、結婚式くらい出来るから!そんな芸能人みたいなのは無理だけどっ」
俺の必死の説明に真白は笑う。
「芸能人みたいなのって、あれだね。優樹菜の結婚式みたいな?」
「えっ?優樹菜ちゃんの結婚式、芸能人みたいだったの?」
「うん。モーターボートで会場に現れたり、三輪さんが優樹菜の為にプロに頼んで曲を作って生演奏で歌ったり」
「えっ!?」
俺の知らない空白の3年間にそんなことが…
「私もあれは出来ない」
「あっ、その興味深い話は後で詳しく聞く。、そこまでは無理かもしれないけど、好きなドレスとか白無垢とか選んで、結婚式したり、親しい人を招いてパーティーしたり、それくらいなら出来るから」
「でも、恭ちゃん土日祝日お店あるし」
「結婚式の時くらい休むからっ!」
必死の俺に、真白は落ち着いていて、そしてそんな俺を見て微笑んだ。
「恭ちゃん、私、今…すごーく幸せよ」
「えっ…うん、俺も」
「だから、十分」
「えっ?」
「Petitが軌道に乗るまでは恭ちゃんも大変だと思うし…。私もやっと仕事場には馴れたけど仕事はまだ手一杯だし…。結婚式ってね、すごく準備が大変なのよ?」
真白が俺の目を真っ直ぐ見て、穏やかに話してくれる。
だから本心を話してくれてる。
「打ち合わせとか沢山しなきゃならないし…。恭ちゃん身体を休める時間がなくなっちゃうよ。今無理にしなくても、そのうち簡単に写真撮って―」
「俺の為に花嫁さんになってよ…」
真白の話の途中で、俺は呟いた。
その言葉に、真白は話を止める。
「真白の花嫁姿、見たいよ」
ハッキリした声で伝える。
「…もう33歳だし、可愛いドレス似合わないよ」
「真白は18歳の時から変わらないよ」
真白は困ったように苦笑する。
「それは無理があるよ、恭ちゃん。ほら、ここ!」
真白は自身の目尻の下を指差した。
「うっすらシミが出てきたの。お肌の張りも15年前とは全然違うし…。それに……」
口ごもる真白。
「うん?」
真白の挙動がおかしい。
「どした?」
「……千穂ちゃんに相談しようと思ってたんだけど………」
真白は、言いにくそうに俺を小さく手招きした。
俺は席を立って真白の側に寄る。
内緒話しようとするから、しゃがんだ。
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