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コソコソっと耳打ちしたその内容が早すぎて聞き取れなかった。
「うん?」
真白は真っ赤な顔をしている。
「ごめん、聞き取れなかった。もう一回」
「えーっ!?」
「ごめんごめん。マジで聞き取れなかった」
俺は真白に、片耳を近付ける。
真白は少し考えてから、観念したように、
「シ…ラ……ガ」
消え入りそうな声で俺に耳打ちした。
「シラガ?」
「あぁーっ!ダメッ!言わないでっ」
俺の口を両手で塞ぐ真白。
シラガ?……白髪!
真白ががっくり項垂れている。
俺は口元の真白の手を避けて立ち上がる。
「どれ?」
問い掛けたら俺を見上げた。
「見るのッ!?」
「大丈夫だって。どの辺り?」
真白の背後に回る。
真白は観念して少しうつむき、右手で後頭部の少し右寄りを人差し指で差した。
アレンジして一つに束ねられてる真白の髪に、人差し指で優しく髪を探る。
「ん~?」
暫く探すと確かに2センチにもならない白髪を2本発見。
「あぁ、これか。2本?」
「えっ!?」
バッと立ち上がった真白の後頭部が、俺の顎に当たりそうになり咄嗟に避けた。
「2本!?」
両手で後頭部を押さえて真っ青になる真白。
「ウソウソ!1本じゃないの!?」
「…いや、多分2本」
「なんで!?今朝は1本だったっ!!」
いや、そんなことないだろ。
「ウソーッ」
絶望する真白は、床に座り込んだ。
そんな、大袈裟な…
「真白、そんな悲観しなくても大丈夫だって。みんなあるよ」
「みんながあるとかないとかって問題じゃないの」
「まぁ、そうだけど…。俺もあるよ」
俺のカミングアウトに真白は顔を上げた。
「しかも1~2本の噺じゃない。結構あると思う」
「…わかんないけど」
「そう?」
俺は前髪をかきあげて、真白に見せる。
「あるだろ?」
真白はジーッと俺の髪を見て、
「ホントだ…」
と呟いた。
「なっ?どうってことないよ」
そうは言ったものの、納得しない真白。
「よし、ちょっと待って」
俺はリビングの棚の引き出しから、家に置いてるシザーを取って、真白の背後に回る。
「ジッとしてて」
声を掛けると真白は頷き、俺はさっきの真白の白髪を探す。
「確か、この辺り…」
探って見つけ出した真白の白髪。
俺はそれを根元で切る。
他の髪を切らないように慎重に。
シザーの先で処理した。
「はい、オッケー」
俺の掌には真白の白髪が2本。
「切ったの?」
「うん。見る?」
怖いもの見たさで真白は頷く。
掌の白髪を覗き込む真白。
「ホント2本だ」
肩を落とした。
「2本くらいみんなあるよ」
「…先月ヘアカラーしたばかりなのに…」
「あぁ…白髪は油分が多いから、ヘアカラーじゃ染まりきらないんだよ」
「えっ!?」
「だから、白髪染めがあるんだよ」
「別なの!?」
「別だよ」
真白は目を丸くしていた。
「ヘアカラーして…安心してたのに…。次から白髪染め?」
「いやいや、これくらいの量ならまだ白髪染めは必要ないよ」
俺はシザーを棚に仕舞い、真白の白髪をゴミ箱へ。
「いい?」
「どうぞ」
真白の許可を貰ってゴミ箱に捨てた。
まだショックを受けている真白。
「真白、大丈夫だよ」
「…視覚的ダメージが半端ない」
真白は立ち上がり、ダイニングテーブルの椅子に戻る。
俺は真白の側に寄った。
「白髪気にして花嫁さんになってくれないの?」
「そう言うわけじゃないけど…」
真白が座る椅子の地べたに腰を下ろして、
「真白、俺が世界で一番綺麗な花嫁さんに仕上げるから」
と提案した。
「真白の夫は、なかなかのスタイリストらしいよ?」
俺が真白の両手に両手を添えて言うと、真白の表情が柔らかくなって頬がゆるんだ。
「知ってる」
「知ってた?」
二人で笑う。
「真白、俺の花嫁さんになってよ」
彼女の手を握りしめ、真っ直ぐ見上げて言うと、
真白ははにかんだ微笑みを見せて頷いた。
彼女の手を引いて抱き寄せた。
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