23. 芍薬の花

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コソコソっと耳打ちしたその内容が早すぎて聞き取れなかった。 「うん?」 真白は真っ赤な顔をしている。 「ごめん、聞き取れなかった。もう一回」 「えーっ!?」 「ごめんごめん。マジで聞き取れなかった」 俺は真白に、片耳を近付ける。 真白は少し考えてから、観念したように、 「シ…ラ……ガ」 消え入りそうな声で俺に耳打ちした。 「シラガ?」 「あぁーっ!ダメッ!言わないでっ」 俺の口を両手で塞ぐ真白。 シラガ?……白髪! 真白ががっくり項垂れている。 俺は口元の真白の手を避けて立ち上がる。 「どれ?」 問い掛けたら俺を見上げた。 「見るのッ!?」 「大丈夫だって。どの辺り?」 真白の背後に回る。 真白は観念して少しうつむき、右手で後頭部の少し右寄りを人差し指で差した。 アレンジして一つに束ねられてる真白の髪に、人差し指で優しく髪を探る。 「ん~?」 暫く探すと確かに2センチにもならない白髪を2本発見。 「あぁ、これか。2本?」 「えっ!?」 バッと立ち上がった真白の後頭部が、俺の顎に当たりそうになり咄嗟に避けた。 「2本!?」 両手で後頭部を押さえて真っ青になる真白。 「ウソウソ!1本じゃないの!?」 「…いや、多分2本」 「なんで!?今朝は1本だったっ!!」 いや、そんなことないだろ。 「ウソーッ」 絶望する真白は、床に座り込んだ。 そんな、大袈裟な… 「真白、そんな悲観しなくても大丈夫だって。みんなあるよ」 「みんながあるとかないとかって問題じゃないの」 「まぁ、そうだけど…。俺もあるよ」 俺のカミングアウトに真白は顔を上げた。 「しかも1~2本の噺じゃない。結構あると思う」 「…わかんないけど」 「そう?」 俺は前髪をかきあげて、真白に見せる。 「あるだろ?」 真白はジーッと俺の髪を見て、 「ホントだ…」 と呟いた。 「なっ?どうってことないよ」 そうは言ったものの、納得しない真白。 「よし、ちょっと待って」 俺はリビングの棚の引き出しから、家に置いてるシザーを取って、真白の背後に回る。 「ジッとしてて」 声を掛けると真白は頷き、俺はさっきの真白の白髪を探す。 「確か、この辺り…」 探って見つけ出した真白の白髪。 俺はそれを根元で切る。 他の髪を切らないように慎重に。 シザーの先で処理した。 「はい、オッケー」 俺の掌には真白の白髪が2本。 「切ったの?」 「うん。見る?」 怖いもの見たさで真白は頷く。 掌の白髪を覗き込む真白。 「ホント2本だ」 肩を落とした。 「2本くらいみんなあるよ」 「…先月ヘアカラーしたばかりなのに…」 「あぁ…白髪は油分が多いから、ヘアカラーじゃ染まりきらないんだよ」 「えっ!?」 「だから、白髪染めがあるんだよ」 「別なの!?」 「別だよ」 真白は目を丸くしていた。 「ヘアカラーして…安心してたのに…。次から白髪染め?」 「いやいや、これくらいの量ならまだ白髪染めは必要ないよ」 俺はシザーを棚に仕舞い、真白の白髪をゴミ箱へ。 「いい?」 「どうぞ」 真白の許可を貰ってゴミ箱に捨てた。 まだショックを受けている真白。 「真白、大丈夫だよ」 「…視覚的ダメージが半端ない」 真白は立ち上がり、ダイニングテーブルの椅子に戻る。 俺は真白の側に寄った。 「白髪気にして花嫁さんになってくれないの?」 「そう言うわけじゃないけど…」 真白が座る椅子の地べたに腰を下ろして、 「真白、俺が世界で一番綺麗な花嫁さんに仕上げるから」 と提案した。 「真白の夫は、なかなかのスタイリストらしいよ?」 俺が真白の両手に両手を添えて言うと、真白の表情が柔らかくなって頬がゆるんだ。 「知ってる」 「知ってた?」 二人で笑う。 「真白、俺の花嫁さんになってよ」 彼女の手を握りしめ、真っ直ぐ見上げて言うと、 真白ははにかんだ微笑みを見せて頷いた。 彼女の手を引いて抱き寄せた。
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