8516人が本棚に入れています
本棚に追加
結婚式に近づくにつれて、真白は綺麗になっていく。
「そんなん当たり前やん。ブライダルエステ行ってるんやろ?」
朝の開店準備、藤木に話すとそう返ってきた。
「それは、行ってるけど…」
「千穂もそうやったで?週2でブライダルエステに通ってたからな。あの時の肌は最高やったな。あっ、でも妊婦の時はエステ行ってないのにツルツルしとった」
聞いてない情報まで教えてくれる。
カウンターでタブレットやクレジットの機械を立ち上げながら俺はそれを聞いて苦笑い。
モップを持った藤木が近付いてくる。
「肌の透明感にムラムラするやろ?」
やらしい顔で聞いてくる。
俺は呆れて側にあったバインダーで軽く小突く。
「お前…朝からホントにあれだな」
「なんやねん」
それでもニヤニヤしてくる。
「まだ子作りせんの?」
「煩い」
「まだ許可おりひんのか」
「もう黙っとけよ」
タブレットが立ち上がり、会計画面を引き出す。
実は子供のことは二人で解決済み。
就職して暫くしてから、そんな話を所長としたらしい。(どんな職場だよ)
年齢的にも子供を望むのであれば、早い方がいいと所長の考えは寛大らしい。(ありがたい話ではある)
事務所には弁護士が真白を含めて4人いるとか。
みんな年齢層高めで、娘みたいな感覚で接してくれているとか。
子供のことは、もう天に任せるしかない。
ふと見たカウンターの上にある観葉植物のワイヤープランツの状態がおかしい。
「枯れてる?」
ぐったりしてる。
「あ~ぁ、これはここに置いとかれへんな。戻るまでバックヤードやな」
藤木がその白い鉢をバックヤードに持っていく。
確かに枯れかけた植物をカウンターに置くわけにはいかない。
でも、何もアクセントのないカウンターは殺風景。
「代わりの買ってくる」
俺がそう言うと、八尾が飛んできた。
「俺が行きますっ!」
「いや、いいよ。もう朝礼の時間だし。ありがとう」
俺は藤木に一声掛けて、駅前の花屋まで小さめの観葉植物を買いに出た。
ここ数年、千穂さんに鍛えられたセンス。
観葉植物くらいなら選べる。
いつもお世話になっている花屋さん。
俺は観葉植物のコーナーで良さげなものを探す。
「いらっしゃいませ。あっ、Blanc purの天宮さん、いつもありがとうございます」
「あっ、おはようございます」
女性スタッフが出て来てくれた。
ワイヤープランツの話をすると、
「あぁ…急に気温が高くなったからかもしれませんね。日陰に置いて、水やりしていれば復活する可能性もありますけど…」
と教えてくれた。
「時間かかりますよね?」
「そうですね。根気はいると思います」
「じゃ、新しいの買って帰ります。店のは自宅で世話します」
「かしこまりました。ご用意しますね」
同じワイヤープランツをお願いして、俺は店の花をゆっくり見回る。
スタイリッシュなガラス花瓶に並べられた花を眺めた。
その中に、アンティークカラーの花が目に止まる。
花びらがギュッと詰まった丸みのある花。
「すみません、これ、何て花ですか?」
カウンターでワイヤープランツを袋に入れている女性スタッフに問い掛けた。
「それは芍薬ですよ。アンティークカラーでそれだけの種類があるんです。綺麗でしょ?」
俺はその花を一輪手に取った。
「芍薬…」
アンティークカラーはきっと、真白の白い肌に控え目に映える気がした。
インスピレーション。
まだ見ない彼女の花嫁姿なのに、脳裏にしっかりイメージ出来たんだ。
最初のコメントを投稿しよう!