3. 傷

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新城代表が指定したのは、本屋に併設されたカフェだった。 先に着いてアイスコーヒーを飲みながら座って待っていると、時間通りに新城代表は現れた。 サングラスにピチッとしたパンツ、襟つきの派手目のシャツ。 いつものオシャレな出で立ち。 「よぉ。ご無沙汰だな」 そう言いながら、俺の対面の椅子に座り、サングラスを取った。 「ご無沙汰してます」 「痩せたんじゃないか?大丈夫か?」 心配そうに問い掛ける新城代表も、少し疲れた顔をしていた。 「…大丈夫です」 俺がそう答えると、少し頬をゆるませた。 「飲み物…買ってくるわ」 「あっ、俺が!何にされますか?」 ここの店はセルフサービス。 「自分でするよ。座っとけ」 新城代表はそう言って立ち上がり、飲み物を買いに行った。 座ったまま、新城代表の姿を目で追う。 思ってたより普通に話せそうだ。 自分の中で心配だった動揺はない。 ホッとした。 暫くして、代表はアイスコーヒーを片手に戻ってきた。 「お待たせ」 「いえ」 対面の席ではあるけれど、窓際で、それぞれの席が少し窓向きに設置されている。 対面に座っても、向きが窓側だから、ずっと顔を見合わせるわけじゃなく、気持ち的な楽だった。 「裁判中に連絡あるとは思わなかったよ」 新城代表が切り出した。 麗美さんの裁判ははじまっていた。 一連の流れがあるため、まずは覚醒剤所持や使用の件で開廷した。 「あっ、すみません」 「いや、俺はいいんだ。お前の気持ちが大丈夫なら、構わない」 「…はい」 だいぶ気を遣って貰っている。 「久々に通帳記帳したら、イデアルから200万くらいの振込みがあって…」 「あぁ。それか」 「ビックリして」 「あれは退職金だ」 やっぱり退職金だった。 「でも、相場よりかなり多いですよね?俺、正社員になったのってそう長くないし―」 「17の時から12年間だよ、恭一郎。12年間も貢献してくれた」 「いや、でも―」 「そう多くない金額だよ。別に上乗せしたわけじゃない。12年間の功績と、自己都合じゃなく会社都合の退職にしたが、そんなもんじゃ足りないくらいだ」 「会社都合…」 「お前の場合は自己都合じゃない。上司の麗美がしでかしたことで退職せざる負えなくなった」 新城代表が最大限の配慮をしてくれていた。 「すみません…」 「謝るのはこっちだ。お前は…何も悪くない」 「でも…」 「12年もついてきてくれたのに…。こんなことしか今は出来ないんだ。これは事件とは何の関係もない。お前が受け取る権利のある金だ。受け取ってくれ…」 真っ直ぐに見つめれて言われた。 俺は少し考えてから、頷いた。 新城代表は少しホッとした表情を浮かべた。
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