3. 傷

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「…今、どうしてるんだ?」 「あぁ~…何も。無職です」 苦笑いしながら正直に話した。 「病院は通ってるのか?」 「はい…。って言っても先月から再開したばかりで」 新城代表が心配そうに俺を見る。 「やっと、自分が病気なのかもって自覚と言うか、理解と言うか…気付いた感じです」 「そうか…。生活は出来てるのか?金は大丈夫か?」 「病院でもソーシャルワーカーの人が心配してくれたんですけど、当面は貯金もあるし…今回退職金も頂いたので…」 「いや、でも、切り崩して生きてたら大変だろ?」 あまりにも親身になってくれる新城代表。 いつも豪快なのに心配するとこが細やかでビックリした。 「指名貰えるようになってからグッと給料があがって…ボーナスとか賞金とかほとんど手付かずで、真白もやりくり上手だったんでわりと貯金あるんですよ」 新城代表が片手を出す。 「これくらいか?」 「いや、もうちょっと」 新城代表が目を丸くして両手を出してくる。 「そこまではないですけど、今回の退職金で、それに近いくらい…」 新城代表は感心したように頷く。 「お前…すげぇな」 「真白のおかげですよ。外食なんてほとんどなかったし…。やりくりして…贅沢なんて全然させてやれなかった…」 これからと思っていた。 広くて便利なとこに引っ越そうと思ってた。 結婚式は真白のやりたいようにとか、家電も新しい物をって…。 二人で旅行にも行きたかった…。 「お前の腕ならどこでも雇って貰える。病気が治ったら…いいとこに就職したらいい。真白ちゃんにはそれから贅沢を―」 俺の表情を見て、新城代表は途中で話を止めた。 俺は苦笑いするしかない。 「恭一郎まさか…」 「真白とは…別れました」 隠しても仕方ない。 俺のカミングアウトに新城代表はショックを受けたような表情。 「…いつ?」 「先月の中頃に」 「なんで!?」 なんで? なんでと言われたら… 「いや、ごめん。理由は明確だよな」 新城代表はさっきの言葉を打ち消すように言った。 「ごめん…。なんか…お前らは何があっても離れないだろうと…思ってたんだ…。勝手な話だけど…」 新城代表は辿々しく言う。 真白のことを思うと胸が痛くなる。 それを悟られないように、平然を装う。
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