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「お前からか?」
「いえ。真白から“解放してほしい…”って」
「真白ちゃんが?本心じゃないだろ!?」
新城代表もそう思ったようだ。
「…俺、真白と居ると苦しかったんです。多分、真白はそれに気付いて…」
俺の話を聞いて、新城代表は苦しそうな表情を浮かべた。
「散々傷付けて、表に立たせて、別れも彼女に決断させてしまいました…。最低ですよ、俺」
アイスコーヒーの容器が汗をかいている。
俺の手もなぜか汗ばんでいた。
「真白ちゃんは、自分が側に居るとお前が自身を責めて治らないと思ったんじゃないか?だから離れたんじゃないか?彼女は芯の通った賢い子だから―」
新城代表の言葉に小さく数回頷いた。
「彼女の真意を理解してるなら、病気を治して、職にもついて、生活の基盤をしっかりつけて迎えに行けばいい!」
新城代表は懇願するように俺の腕を掴んだ。
でも俺は、首を横に振る。
「俺じゃない方が、幸せになれるのはあきらかだ…」
喉の奥が重くて痛いけど、振り絞るように言った。
「こんなヘタれで、病気になって、職もなくて…身内も拗れてて、外に子供まで居るような男より、他の男との方が幸せになれるはずです」
「恭一郎…」
「今は…辛いかもしれないけど…その方がいいに決まってる」
新城代表は脱力したように俺の腕から手を離した。
「真白が俺から離れようとしていたこと、俺、気付けなかったんです」
汗のかいたアイスコーヒーを手に取る。
「真白は嘘や誤魔化しがヘタで…大抵いつも俺は見破ってきた。異変も不安も気付いてやれてたはずだった…だけど、今回のことは全く…」
「恭一郎、今、お前は普通の精神状態じゃない。無理もないだろ」
「でも、あまりにも真白をみれていなかった」
「仕方ないことだ。麗美がお前を壊したんだ」
「完璧だったんです。荷物もなくなってて、冷蔵庫には俺を心配して沢山食べられるものをストックしてくれていました。日用品も困らないようにストックされていて、任せっぱなしだった家計のやりくりも記録に残して、残額まで俺の名義で残して行ってました…」
「……」
「部屋も片付けられていて、俺が持っていた彼女のマンションの鍵もキーケースから抜き取られていた。うちの鍵はポストに入ってました」
苦しくなってストローでアイスコーヒーを飲んで飲み込む。
そして小さな溜め息を吐いた。
「何にも気付かなかった。どんな想いで準備したんだろうと想像したら…並大抵の覚悟じゃないだろうって…」
“恭ちゃん”
今でもリアルに彼女を感じれるのに、叶わない。
「お前はそれでいいのか?忘れられるのか?」
そう問い掛けられて、俺は新城代表を見て少し笑って見せた。
「わかりません」
そんなこと、いいわけないし、忘れられるわけもない。
だけどそれをするために、努力するしかない。
真白への気持ちは、そうやって返すしかない。
「でも、離れた方がいい。真白が幸せになれる方法は、今はそれしか思い付かない」
肩を落とす新城代表。
苦しそうに息を吐いて、目を閉じて眉間にシワを寄せた。
暫く沈黙。
「…麗美がしたことは、恭一郎や真白ちゃんの人生を大きく狂わせた」
ポツリと言って目を開けた代表は、俺の方に身体を向けて、深く、深く頭を下げた。
「本当に申し訳ない」
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