3. 傷

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―――…… 「お前、年収いくらだったの?」 また大竹がやってきた。 昨日、新城代表と会ったことやなぜ会ったか説明したら必然と退職金の話になった。 それを答えたら冒頭の質問。 「なんでお前にそんなこと言わなきゃなんないんだよ」 大竹がコンビニで買ってきてくれた弁当をレンジで温める。 「大事なことだろ!?12年勤めて退職金200万って少なくないか!?うち自営だからよくわかんねぇけど」 「じゃぁ、口挟むな」 「経理やってるから調べてやるよ!なぁ!年収いくら?」 俺は面倒になって、大竹に耳打ちする。 目を丸くして言葉を失う大竹。 電子レンジの終了音。 それを取り出す。 固まる大竹を置いて、割り箸を横に口にふくみ、弁当とペットボトルを持ってリビングのローテーブルに移動する俺。 テーブルに自分の分と大竹の分の弁当と割り箸を置いた。 我に返った大竹が、コップを2つ持ってテーブルに着く。 「お前!そんなに貰ってたのか!?」 いつも俺に興味のない大竹の食い付きが半端ない。 「金額がグッと上がったのはこの2~3年くらいなんだよ。去年は破格。5年前はその4分の1くらいだったから」 「いや、だけど…お金持ちじゃねぇか…」 「ないよ」 言葉を失う大竹。 俺はペットボトルを開栓して、コップにお茶を注ぐ。 「…美容師って儲かるんだな」 「客がつけばな。イデアルは会社自体がデカイし、代表の考えが努力して掴んだ分は還元方式だったから指名料は全額貰えてたから」 「お前、ちょっと前に、その月の指名数100人超えてたって言ってなかった?」 「……」 「指名料っていくらだよ?」 「…計算すんな。食えって」 俺は弁当の蓋を開けて、箸袋から箸を出した。 放心する大竹。 「酒屋でやってく自信がなくなった」 「なんだそれ」 俺は鼻で笑って弁当を食べ始めた。 「それだけ貰ってて退職金200万って安くねぇの?」 「だから、それだけ貰えるようになったのはここ2~3年なんだって。それに12年間働いていたうちの半分くらいはバイトだったから」 「…あぁ…そうか。慶次郎の学費の為にバイト掛け持ちしてたよな。美容師だけじゃ給料安くて学費稼げないからって」 俺は頷く。 「お前、それだけやってやった弟に…。まさかの仕打ちだな」 「慶次郎は学費のこと知らねぇんじゃねぇの?全部母親に渡してたから」 「いや…もう……あれだな」 「何?」 「お祓いに行け。お前何かに憑かれてるよ、絶対」 大竹の遠慮のないツッコミは、今の俺には楽だった。 弁当を一口二口食べて箸を置く。 「食欲ねぇの?」 弁当を食べながら大竹が問い掛けてくる。 「あんまり美味しくない」 不味い訳じゃない。でも美味しくもない。 「じゃぁ、食うな」 大竹が俺の弁当のカラアゲをつまんで食う。 「真白ちゃんの料理と比べるなよ」 「真白のカラアゲ旨かったな…」 あぐらをかいだまま項垂れた。
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