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「…お前、今、それを言うか?」
「真白のカラアゲって、ちょっとだけ甘いんだよ。カリッとしてて、で、柔らかい。次の日が休みの日はニンニクを入れてくれて、仕事の日は生姜を効かせてくれてて…無限に食えた」
「知らねぇよ!」
大竹がそう叫んで弁当をガツガツ食う。
「お前あの時、よく冷蔵庫の中身食わなかったな…」
俺は思い出したように大竹に言う。
「あんな気持ちのこもった料理、食えるわけねぇだろ」
そうかと俺は少しだけ笑う。
大竹は思い出したように俺を見る。
「タンシチュー残ってないの?」
「冷凍庫にある」
「おっ!」
「絶対あげない」
大竹は俺を睨み付け舌打ちした。
そして俺の弁当のカラアゲを突き刺して、睨み付けたままカラアゲを頬張る。
「こぇ~よ」
思わず吹き出してしまう。
二人で笑った。
天を仰いで笑った大竹の襟足が気になった。
「お前、そこ長くない?」
指差すと、大竹は気にするように首をすくめた。
「あぁ~今月まだ床屋に行けてないんだよ」
そう言われてみれば、全体的にぼさってる。
「切ってやるよ」
俺の提案に、大竹は驚く。
「カリスマ美容師に切って貰うほどの頭じゃねぇよ。1500円カットだから」
「バーカ。カリスマじゃねぇよ」
笑う。
「色々世話になってるお礼」
コンビニ袋に食い終わった弁当を片付けながら言うと、大竹はラッキーとのった。
真白の髪をカットする時みたいに、部屋に新聞紙を引いて、背凭れのないラウンドチェアに座って貰った。
タオルをまいて、クロスを掛けてやると、
「このクロス、パクってきたの?」
何て聞いてきた。
「なわけないだろ。買ったんだよ」
台を持ってきて、棚に仕舞っていたシザーケースに入っているセットを持ってきて腰に装着する。
久々だ。
「簡単にでいいよな?」
「男前に切ってくれ」
「何だよ、その抽象的な注文は」
「じゃ、お任せにしてやるよ。いい感じでやれ」
思わず笑ってしまう。
俺はシザーとコームを取って、大竹の髪にシザーを当てた。
一回はさみを入れたら、感覚はすぐに戻る。
迷いなく、指が、手が、動く。
頭の形と、髪の生え方、クセ、ボリューム、感触。
触ればその人に合うように、自分で頭で計算する。
左右の違い、バランス、コンプレックス…
全ての情報から、一番合うスタイルを提案できる。
ワックスで仕上けて、俺が差し出した手鏡で仕上がりを見た大竹。
「おぉ!!」
と歓声を上げ、
「まぁまぁだな」
と言った。
「何だよ」
思わず笑ってしまうが、手鏡を返さずに右や左を確認してにやける大竹。
「これ、何て切り方?」
「切り方?…あぁ~、ソフトツーブロック刈り上げヘア?」
「何だよ、聞いたことねぇよ」
大竹が珍しく嬉しそう。
「…昔、思い出すな」
「ん?」
「よく、お前に髪切って貰ってた」
大竹に言われて思い出す。
中学の時から、大竹の髪をよくいじってた。
夏休みは市販のヘアカラーで金髪にして、大竹の親に怒られたりもした。
「あったな、そんなこと」
俺は片付けながら言う。
「恭一郎」
「ん?」
「美容師続けろよ」
苦笑いして流してみた。
「お前、これくらいしか取り柄ないだろ」
「うっせぇよ」
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