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「真白の言葉を勝手にいいように解釈するなッ!…どんな思いで言ったか考えたりしたか?…刃?…救い?……っ…」
叫ぶように言った言葉と共に、息苦しさと胸に重い痛みが走る。
空間が歪むような現象。
立っていられなくて、そのまま膝から崩れる。
「…大丈夫か!?」
萩山悟が俺に駆け寄る姿が何となく見えるも、俺はテーブルの縁を持ち目をギュッと閉じた。
「おい!大丈夫か!?どうした!?」
そう言われてもわからない。
息が苦しくて、まともに呼吸が出来ない。
目を開けたら回転に近い目眩を感じる。
「おい!誰かッ!!」
萩山悟が誰かを呼ぶ声。
「恭一郎、大丈夫か!?」
肩に触れられた瞬間―
“悟さん、ここに…”
甦る記憶、麗美さんの声。
“服は脱がしておくか?”
“大丈夫だと思う…”
ベッドに横たわる側での、萩山夫妻の会話を思い出す。
息を吐くように声を上げて、前屈みに倒れた。
痛みと共に、ハッとする。
水中から上がってきたような呼吸を繰り返した。
ノックがして、レストランのボーイが入ってきた。
「萩山様、いかがされましたか!?」
「連れが体調を…」
「お客様、大丈夫ですか!?」
ボーイが俺の側に駆け寄り、しゃがんで俺の様子を伺う。
「救急車をお呼びしましょうか!?」
その問い掛けに、深い呼吸をしながら首を横に振る。
「手もケガされてますね。お手当て致します」
俺が薙ぎ倒した食器はバリバリに割れていて、俺はその割れた食器の上に手をついていた。
何ヵ所か切れていて、血が見える。
「お気分が優れないようですが、本当に救急車お呼びしなくて大丈夫ですか?」
「…必要…ありません」
やっとの思いで声が出た。
「うちの車で病院に連れていこう」
萩山悟が提案するも、
「必要ない」
と突っぱねた。
ボーイが持っていたナフキンを出血した箇所に当ててくれる。
さっきの記憶は、事件後はじめて思い出した記憶だった。
事実なのか、妄想なのか、わからない範囲。
それでも生々しく甦った。
右手の親指の付け根が、パックリ切れて出血していた。
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