3. 傷

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「真白の言葉を勝手にいいように解釈するなッ!…どんな思いで言ったか考えたりしたか?…刃?…救い?……っ…」 叫ぶように言った言葉と共に、息苦しさと胸に重い痛みが走る。 空間が歪むような現象。 立っていられなくて、そのまま膝から崩れる。 「…大丈夫か!?」 萩山悟が俺に駆け寄る姿が何となく見えるも、俺はテーブルの縁を持ち目をギュッと閉じた。 「おい!大丈夫か!?どうした!?」 そう言われてもわからない。 息が苦しくて、まともに呼吸が出来ない。 目を開けたら回転に近い目眩を感じる。 「おい!誰かッ!!」 萩山悟が誰かを呼ぶ声。 「恭一郎、大丈夫か!?」 肩に触れられた瞬間― “悟さん、ここに…” 甦る記憶、麗美さんの声。 “服は脱がしておくか?” “大丈夫だと思う…” ベッドに横たわる側での、萩山夫妻の会話を思い出す。 息を吐くように声を上げて、前屈みに倒れた。 痛みと共に、ハッとする。 水中から上がってきたような呼吸を繰り返した。 ノックがして、レストランのボーイが入ってきた。 「萩山様、いかがされましたか!?」 「連れが体調を…」 「お客様、大丈夫ですか!?」 ボーイが俺の側に駆け寄り、しゃがんで俺の様子を伺う。 「救急車をお呼びしましょうか!?」 その問い掛けに、深い呼吸をしながら首を横に振る。 「手もケガされてますね。お手当て致します」 俺が薙ぎ倒した食器はバリバリに割れていて、俺はその割れた食器の上に手をついていた。 何ヵ所か切れていて、血が見える。 「お気分が優れないようですが、本当に救急車お呼びしなくて大丈夫ですか?」 「…必要…ありません」 やっとの思いで声が出た。 「うちの車で病院に連れていこう」 萩山悟が提案するも、 「必要ない」 と突っぱねた。 ボーイが持っていたナフキンを出血した箇所に当ててくれる。 さっきの記憶は、事件後はじめて思い出した記憶だった。 事実なのか、妄想なのか、わからない範囲。 それでも生々しく甦った。 右手の親指の付け根が、パックリ切れて出血していた。
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