4. エール

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「恭一郎ッ!?」 俺の名前を呼び、処置室に勢いよく入ってきたのは、大竹だった。 「お疲れ」 看護師さんに右手に包帯を巻いて貰いながら、息を上げる大竹に言った。 診察ベッドに座る俺を、頭の上から爪先まで見る大竹。 「墨さん、これで完了です」 包帯を巻き上げた看護師さんに言われた。 「お世話になりました」 立ち上がりお礼を言って、鞄やファイルを持って大竹と処置室を出た。 「お前、発作がどうのって言わなかった?」 会計に向かいながら、大竹が言う。 「いや、なんか…フラッシュバックからの過呼吸だったみたいで」 右手は包帯、左手にファイルを持ちながらボディバッグを首に通そうと苦戦していると、大竹が手を貸してボディバッグを掛けてくれた。 「サンキュー」 「フラッシュバックって?過呼吸?」 「いや、まぁ、心療内科の先生がそうだろうって」 萩山悟と別れた後、自ら心療内科に受診に向かった。 症状を伝えて、カウンセリングを受けた。 その先生が、手の傷を見て、縫合した方がいいと形成外科に回してくれた。 「心療内科の先生が真白に連絡しようとしたから、咄嗟にお前を呼んだんだ。ごめん」 その説明で大竹は全てを理解したようだった。 会計窓口に受診ファイルを出して、待ち合いのベンチシートに大竹と並んで座る。 母親や弟を頼るのもイヤだった。 真白に連絡されても困る。 大竹しか頼るヤツはいなかった。 会計の順番を待ちながら、大竹に萩山悟との話をした。 大竹は黙って話を聞いてくれた。 「真白ちゃん、ずっとお前を支えるつもりだったんだろうな…」 話を聞き終えた大竹がポツリと言った。 「お前の側にずっと居るつもりで出た言葉だろ?同じ土俵には上がらない、罪を償えって訴えたんだから…。少なくとも子供が生まれた後も、お前と一緒に居るつもりだった…」 大竹の見解。 真白がどのタイミングで俺と離れようと思ったのか… 「なぁ、恭一郎」 「ん?」 「俺が見舞いに行った時…」 大竹がそう言い掛けた時、会計の窓口で名前を呼ばれた。 「やっぱ、いい。金払ってこい。先に車寄せにバイク回してくるわ」 大竹はそう言って出口に向かっていった。
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