4. エール

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なぜ大竹が俺を誘ったのか。 当日判明した。 「お前…この軽ワゴンで東京から関西まで行く気か?」 朝一で迎えに来たかと思ったら“大竹”の屋号入りの配達軽ワゴンで現れた大竹。 「向こう回るのに車必要だろ?レンタルよりこっちから行った方が節約になる」 いや、そりゃ、そうだろうけど。 それって… 「お前、俺を完璧運転要員で誘ったろ?」 俺の問い掛けにニヤッと笑いながら運転席に乗り込む大竹。 「俺は、怪我人だからな」 助手席を開けて包帯を巻いた右手を差し出した。 「わかってるよ。高速なんて真っ直ぐだし、骨折れてるわけじゃねぇから大丈夫だろ。早く乗れっ」 無茶苦茶だろ。 俺は渋々助手席に乗り込む。 「おかしいと思ったんだよ。お前が俺を誘うなんて」 ブツブツ言ったところで大竹の耳には入らない。 発車してすぐに、スマホを投げ渡される。 「奈良の酒蔵にも行くから、そこ連れてってやるよ」 大竹のスマホの画面には、どこかの寺のホームページ。 「松尾寺?」 画面を見て聞いた。 「日本最古の厄除け寺だってよ」 「縁もゆかりもない人間が厄払いに来ても困るだろうよ。明治神宮でいいよ」 大竹にスマホを返す。 「日本最古だぞ?今までどんなデカイ厄も扱ってきたはずだ。ここにしろ」 20年以上の知り合いだけど、そんなに信仰深い人間とは知らなかった。 「…わざわざ調べたの?」 「俺は博学なんだよ」 思わず吹き出した。 「中学の時、オール3だったやつがよく言うよ」 「バーカ、体育は10だよ」 大竹と過ごしていると楽だった。 8時間の高速の旅も苦ではなかった。
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