4. エール

5/12
前へ
/300ページ
次へ
新幹線や飛行機のような不特定多数が居る密閉された空間の長時間移動に自信はなかった。 だけど、気心の知れた大竹となら大丈夫な気がした。 軽ワゴンの座席の座り心地は最低だったけれど、それ以外に不満はなかった。 今まで互いにバカもしてきたし、気を遣わない相手で、気も合ったからずっとつるんできたんだと思う。 だけど、女のことや仕事のことは根掘り葉掘り聞いたりすることはなかった。 今までは何かを相談したりなんてするより、バカやって騒いだ方がストレスの発散になった。 だから、はじめて大竹の仕事を側で見た。 ヤツが何をしてるのか知った。 まず京都に入って、地酒の蔵元を訪ねた。 大竹がリストアップしていたのは京都・兵庫・奈良にある4軒の蔵元。 どれもネット販売されていない酒を、自分の酒屋に仕入れて売りたいとわざわざ交渉しに来たようだ。 意外と真面目に仕事をしていた。 京都で訪れた蔵元は、一切ネット販売をしていなくて地元にしか卸していない酒だった。 話をしても卸してはくれなさそうだ。 穏やかな口調ではあったが感触的に門前払いだった。 「ダメなんじゃね?」 「いや、とりあえず顔は合わせられたし、名刺も渡せたから、第一関門突破だな」 「えっ?」 ポジティブなのか? ノートに何か書き込んでいる大竹。 「なに書いてんの?」 「教えない」 走り書きした大竹は、明日は奈良の蔵元だからと、奈良へ移動すると言う。 「奈良に泊まるの?」 「そう」 「大仏に会える?」 「お前に必要なのは大仏じゃない。厄除けだ」 「折角奈良に行くんだから、大仏と鹿」 「厄除け最優先」 そこは引かないらしい。 車に乗り込んで京都から奈良へ。 「奈良で何か食うの?」 「ラーメン」 マジか。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8495人が本棚に入れています
本棚に追加