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奈良に到着して、ご当地ラーメンにありつけたのは夕方だった。
昼間はサービスエリアで済ませていた。
「お前と居たら野菜不足に陥る」
対面の席でラーメンを食べながら、クレームを言ってみた。
「白菜とニラが入ってる」
そう言ってラーメンをすする大竹。
いや、入ってるけど。
「食べにくいんだよ、左手でラーメンは!」
匙を投げるように割り箸をテーブルに置いた。
「諦めんな。食えよ」
大竹の言葉を無視して、水を飲む。
「兄ちゃん食べにくいやろ?フォーク出したって~」
突然話し掛けてきて、店員にフォークを頼んでくれたのは隣の席のおじさんだった。
店員がフォークを持ってきてくれた。
「あ、ありがとうございます」
店員にも横のおじさんにもお礼を言う。
「アンタらここらの若者ちゃうなぁ?」
「東京から来たんです」
「観光か?」
それを答えようとすると、
「コイツは観光。俺は仕事です」
となぜか大竹がそこは正確に横槍で伝えてきた。
「そうか。まぁ、どっちにしても何もないとこやけど、ゆっくりしていきや」
おじさんは、爪楊枝をくわえて軽く手を上げて去っていった。
「めっちゃ親切」
借りたフォークで食べると食べやすい。
この発想はなかった。
一気に食べるスピードが上がる。
親切な奈良のおじさんに感謝した。
その日はビジネスホテルのような民宿に泊まり、翌日朝一で大竹オススメの寺へ足を運んだ。
入り口の階段が長くて、暫く運動していない俺にはキツかったが、大竹はヒョイヒョイ昇っていく。
「お前、労りの気持ちはないのか?」
「ない」
「神様が見てるぞ!」
「ここは寺だ。それを言うならお釈迦様だろ。バカか」
あぁ言えばこう言う。
その腹立ちを階段を昇るエネルギーに変える。
寺に到着したら、息が上がっていた。
マジで運動不足。
これはヤバい。
いくら朝一とは言え、真夏。
Tシャツに汗が滲む。
「ほれ、祈祷申し込みしてこい」
「手合わせるだけでいいよ」
「アホか、行ってこい」
足蹴りされて、祈祷受付をした。
山の上にある寺。
そこでしっかりと祈祷をして貰った。
多分、人生ではじめての体験。
俺の厄払いはいいから、真白の厄を何とかしてくれと祈りながら祈祷を受けていた。
でも、そもそも俺が厄だったなら、俺と離れた真白は、もう大丈夫なのかもしれない。
そんな風に思った。
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