4. エール

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どれくらいそこに居たかわからない。 1時間か2時間か…暑いのにただそこに座っていた。 これからどうしようか。 どうなるんだろうか。 どうしたらいいのか。 堂々巡り。 この発作のような不安な気持ちは、いつ治るのか。 未来を考えると、やっぱり不安しかなかった。 スマホの振動を感じて、パンツのポケットから出すと、大竹からのラインだった。 《どこ?》 シンプルな問い掛け。 《大阪駅》 そう返すと、 《一歩も動いてねぇじゃんか》 と返ってきた。 そもそもコイツだって、こんな面倒見のいい感じじゃない。 その大竹がここまで俺に構うのは、相当ヤバイからだ。 《近辺のヘアサロンは見てきた。俺、美容師に戻れる気がしない》 そんな弱気な返信をしてしまった。 既読になるも、返信はない。 呆れられたかも。 そう思った。 暫くして、大竹から着信。 電話を取ると、 『どこ?』 すぐにそう問い掛けられた。 「大阪駅の庭園」 『なんだそれ』 わからなくても仕方ない。 俺も説明できない。 『恭一郎』 突然名前を呼ばれる。 『一回しか言わないからよく聞け』 そう宣言された。 『美容師に戻りたい気持ちが1ミリでもあるなら、絶対に戻れる』 大竹が声を張って言った。 『お前の病気の本読んだら、言わない方がいいって書いてあったけど、俺は言う!!』 「ん?」 『負けんな!頑張れっ!!絶対に諦めんなっ!!!元気になれっ!!!』 張り上げた声で大竹は言った。 あまりにも突拍子もなくて、 また大竹が普段言わない言葉ばかりで、 ビックリして、そして笑えて、なぜか泣けた。 『迎えに行くから、待ってろ!』 一方的に電話は切れた。 大竹らしくない言葉なのに、大竹らしい。 潤んだ目を、肩で拭った。
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