4. エール

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大竹の迎えで、神戸のビジネスホテルに到着したのはだいぶ遅い時間だった。 迎えに来た大竹は、あまりにも普通で、さっきの電話はまるでなかったかのような振る舞いだった。 当たり障りのない話とかではない。 いつも通り、普通過ぎる会話。 「夕飯ラーメンでいい?」 「いや、違うのがいい」 「醤油かとんこつが魚介醤油、どれがいい?」 「ラーメンから離れてくれ」 そんな会話。 何も変わらなかった。 「さっきの電話、お前からだよな?」 思わず確認する。 「あぁ?」 愛想のない答える気のない返事。 呆れるくらい大竹らしくて、有りがたかった。 翌日、神戸の酒蔵に朝一に寄ってから、東京に戻った。 「疲れたから、お前運転しろ」 と、言って助手席で寝た大竹はそれから東京まで起きなかった。 包帯の巻いている手はそこそこ治っていたと思う。 だけど、流石に疲れた。 まさか、誕生日にこんなことさせられるなんて思いもしなかった。 自宅前に着いたのは、夜の20時前。 「おい、着いたぞ。ここから船橋までは自分で運転して帰れ」 爆睡する大竹を叩き起こして、俺は言った。 「おっ、東京じゃん」 起きた大竹の第一声。 「ふざけんな。寝過ぎだよ」 文句を言いながら、シートベルトを取る。 「8時間も運転できたら、大丈夫だ。自信持て」 その言葉に思わず溜め息と笑みが出る。 「疲れた。寝るよ」 「寝ろ寝ろ」 運転席を降りて、大竹に交代する。 荷物を持った時だった。 スマホの振動。 ポケットから出すと着信だった。 相手は―― 「誰?」 大竹に聞かれる。 「…矢沢」 「矢沢?あっ、昔のバイト先の後輩?」 そう。 真白の幼馴染みだ。 「悪い、出る」 大竹に断って、電話に出た。 『あっ、墨さん!?』 切羽詰まったような矢沢の声。 それは、ずっと気になっていた真白のことを知らせる電話だった。
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