5. 君の真意を知る

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「優樹菜ちゃん、何か知ってるなら教えて」 迫る俺を、 「やめとけ、恭一郎」 大竹が止める。 下を向く優樹菜ちゃん。 「優樹菜ちゃん!」 「止めとけって!恭一郎!!」 大竹が俺の腕をグッと引っ張る。 「連れて帰るから」 大竹は矢沢や優樹菜ちゃんにそう言って俺を引っ張る。 優樹菜ちゃんは俺を見ない。 優樹菜ちゃんのその様子に、何かを感じた。 矢沢を見て、また矢沢も俺の視線をそらした。 「…真白は…何か知ったのか?」 何か心当たりがあったわけでもない。 何かに気付いたわけでもない。 だけど、優樹菜ちゃんのさっきの言葉や態度。 真白があんなに準備して離れた事実。 俺は、真白が俺と離れることを俺の様子だけで決めたとは思えなかった。 「真白は…」 「恭一郎帰ろう」 俺を引っ張る大竹。 俺は一歩たりとも動けなくて、優樹菜ちゃんを見つめた。 彼女は、目を潤ませて唇を噛み締めていた。 「真白は何を聞いた?」 俺はそう問い掛けた。 優樹菜ちゃんが俺を見る。 何か確信があったわけでもないのに、そう問い掛けた言葉は自然と出た。 「真白はわかってます。恭ちゃんが傷付いて苦しんでたことも…。側に居たら二人とも潰れてしまうことも…それでも気持ちは変わらないって…」 大粒の涙を流しながら、優樹菜ちゃんは教えてくれた。 「だけど…“真白と居ると辛い”って…“一緒に居るのが辛い”って…」 優樹菜ちゃんが教えてくれたその言葉を、 俺は、覚えていた。 「足をケガして入院していた病室で、恭ちゃんと友達の会話をたまたま聞いてしまった…。真白は、恭ちゃんの本音(きもち)を聞いてしまった…」 全てがパズルみたいに揃って、真白の気持ちと行動が合致した。 “ごめんね。ずっと側にいるって言ったのに…” 俺の本音(きもち)を聞いて、 それでも真白は、あんな風に? “一緒にいても、辛いだけだから…” “お互い幸せになれないよ” “…一緒に居るのが辛いの。苦しいの…” 俺から目をそらして、右下に視線を落としたあの仕草。 自分の気持ちを話したんじゃない。 あれは、俺の気持ちを、真白が代弁した。 茫然とする俺を、優樹菜ちゃんは側に寄って、見上げる。 「真白のことは…みんなで支えます」 優樹菜ちゃんは俺にそう言って、俺を促す為か、それを改めて決心する為か、小さく何度も何度も頷いた。 矢沢もなぜか鼻を赤くして泣いていた。 「私、仕事に戻ります…」 手で涙や鼻を拭い、優樹菜ちゃんが看護師の顔に戻る。 俺に背を向けて、病棟に戻って行く。 「恭一郎、帰ろう。車、回してくる」 大竹はそう声を掛けてくれた。 「墨さん、すみません。俺―」 矢沢が何か言い掛けた時、俺は思わず身体が動いて優樹菜ちゃんを追う。 廊下の向こうを歩く優樹菜ちゃんの後ろ姿。 「優樹菜ちゃん!!」 呼び止めると、彼女は足を止めてこちらを見た。 俺はダッシュで彼女に駆け寄る。 駆け寄った俺を見上げる優樹菜ちゃん。 「頼みがある…」 「…えっ?」
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