5. 君の真意を知る

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優樹菜ちゃんに連れられて、俺だけが病棟に上がった。 エレベーターの中、少し緊張して手が汗ばむ。 「風邪を拗らせたのに、無理して生活して…肺炎になっちゃったんです」 優樹菜ちゃんが教えてくれた。 「マンション引き払って、実家に帰ってたんだけど、真白のお母さん、今、双子を産んだお姉さんの方にも掛かり切りで…」 「そう…」 「いっつもあの子、タイミングが悪いんですよね。甘えたい時に甘えられない状況に重なる感じで…」 確かに、それは思う。 真白のお母さんは、俺の母親なんかよりずっと愛情深いし、よくしてくださる。 「そんな中で、真白のことを一番に見てたのは、やっぱり恭ちゃんなんだって思います…」 優樹菜ちゃんはそう言ってくれた。 エレベーターが到着し、ナースステーションを横切り長い廊下を歩いていく。 割とナースステーションに近い個室に、真白の名前の札が入った部屋はあった。 優樹菜ちゃんはノックした後、そっとその引き戸を開けて、中を確認するように身体を部屋に入れた。 すぐ出てきた彼女は、俺を見てから、引き戸をしっかり開けた。 「私は、ここに居ます」 彼女に言われて、俺は頷く。 そして静かにそっと、部屋に入った。 入ってすぐ扉の前にカーテンの目隠しが半分だけされていて、それをゆっくりめくって中へと入った。 こじんまりとした個室に、ベッドが一台。 そのベッドに真白は酸素マスクをして仰向けに眠っていた。 思わず側に駆け寄り、手を伸ばしたけど、グッと思い止まる。 赤い顔をして、苦しそうに浅い息を繰り返しながら、点滴に繋がれて彼女は眠っていた。 真白の側で、床に膝をついて座る。 苦しそうな息遣いと、酸素マスクの作動音。 随分痩せたように見える。 胸が締め付けられる。 鼻や目の奥が痛くなるくらい熱い。 息を飲むのも喉が重くて、泣きそうになる気持ちを抑えた。 俺が不甲斐なくて、全部、真白に背負わせてしまった。 布団から出ている右手。 その手の側に手を置いた。 触れないギリギリのライン。 だけど、真白の熱を感じた。 辛そうで、可哀想で、代わってやりたい。 きっと、頑張り過ぎたんだ。 色んなことを背負って、頑張ろう頑張ろうって奮い立たせていたに違いない。 そんな姿を思っただけで、苦しくて仕方なかった。 唇を噛み締めて、真白をジッと見る。 伝えたいことは沢山ある。 でもそれは、真白も同じだったはずだ。 俺の気持ちを知りながら、自分の気持ちを隠して、俺にあの言葉を告げた。 どれだけ苦しめた? 真白が力なく咳をして、少し身体が動いた拍子に、真白の指が俺の手に触れる。 咄嗟に、思わずその手を掴んでしまった。
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