5. 君の真意を知る

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手を掴んでも、真白が起きることはなかった。 熱くなったその手を、俺はキュッと優しく握り締めた。 真白に触れたら、気持ちが溢れてくる。 込み上げてくる気持ちを圧し殺すように、下を向き、抑え込む。 そして、顔を上げて彼女を見つめた。 握り締めた手を両手で包むように持ち、額に当てて念じた。 “真白…元気になれ…” 強く、強く、念じた。 苦しそうな息遣いを見つめる。 真白がここまで寝込むのははじめてだ。 きっと、無理をしすぎた。 俺が、無理をさせたんだ。 「ごめんな…」 声にならない声で伝える。 真白は、俺の気持ちを聞いて、傷付いたはずだ。 それなのに、俺の未来を考えて、俺から離れた。 自分の気持ちを圧し殺して…。 あんな嘘まで言って… 俺の背中を押してくれたんだろ? 深いよ、 愛が、深すぎる… 視界が涙で歪むのを必死で堪えた。 必ず、立ち直ってみせる。 約束するよ、このまま、潰れたりしない。 未来まで、奪われたりしない。 真白の手の甲に、キスをしようとしたけれど、グッと堪えた。 ゆっくり、そっと、元の位置に、彼女の手を戻す。 ジッと真白を見つめて、ゆっくりと立ち上がる。 一歩後ろに下がり、 背を向けて、出口へそっと向かった。 「……恭ちゃ……」 呼ばれてバッと振り返った。 思わず駆け寄る。 「…ど…こ………っ……恭ちゃ…っ…」 苦しそうに、酸素マスク越しに聞こえた。 目が覚めた様子でもない。 でも、眉を寄せて苦しそうにし、その目尻に涙を見た。 夢の中で俺を探している様子だった。 もう一度手を握る。 “ここに居るよ、真白…” 神様、せめて彼女の見る夢は、幸せにしてやってくれ。 握った手を、ほんの少し握り返してくれた気がした。 …俺の名前を呼んでくれた。 “…真白、必ず立ち直って見せる。誰にでもない、真白に誓う” 念じた。 「真白…愛してる…」 俺は真白の手の甲に、軽くキスをした。 そしてその手を、布団の中へゆっくりと仕舞う。 もう一度立ち上がり、 一歩、二歩…後ろへ下がる。 本人の意識がない、一方通行の想い。 届かなくても、それでも伝えたかった。 俺は背を向けて、部屋を出る。 外には優樹菜ちゃんが、待ってくれていた。 俺を見上げた彼女が何か言い掛けたけど、言葉を飲んだのがわかった。 「…ありがとう。真白の力になってやって…頼むね」 彼女に伝えて、俺は足早に来た通路を戻る。 真白、必ず、立ち直って見せるよ。 立ち直って、真白に会いに行くから… 涙を手の甲で一度拭い、前を向いて歩いた。
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