5. 君の真意を知る

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九条先生に知らせた翌日、実家に顔を出した。 実家の1階の一部は、店になっている。 覗いてみると閉まっていた。 外にはクローズの看板。 今日は定休日じゃないはず。 何で? 裏の玄関扉にまわり、ドアノブをまわすと開いた。 そっと開けて、中を見てみる。 暗い。 まさか、まだ寝てるんじゃねぇだろうな… 腕時計で時間を確認すると、時刻は午前11時前。 留守なのかとも思いながら、中に入る。 玄関で靴を脱いで、一段上になった家へあがるも、家の中は暑い。 真っ直ぐ短い廊下があって、右の扉が店舗へ繋がる。 左の引き扉が居間。 その居間の引き扉を開けるも、誰も居ない。 俺は居間には入らずに、廊下突き当たり右奥の階段を上がる。 2階には部屋が2つ。 2階に上がると微かに冷気を感じた。 一部屋は母親の部屋。 ノックして開ける。 涼しい。 そして、酒臭い。 カーテンの敷かれた暗めの部屋の真ん中に布団が敷かれていて、布団は膨らんでいた。 「…母さん?」 問い掛けると、その膨らみは動いた。 そして布団から顔が出てくる。 目が合う。 「……恭一郎?」 母さんだった。 「何やってんの?もう昼前だけど?」 俺の問い掛けに力なく起き上がってくる。 「風邪でもひいたの?」 違うとわかっているけど問い掛ける。 予想はしていたものの、あまりにも予想通りすぎて溜め息が出た。 「熱はないよ」 だろうな。 「だけど、気力がわかないんだよ」 「あ、そう…なんで?」 布団に座り込んだまま、母親が俺を見上げる。 「だって…長男は薬飲まされて種馬扱いされた挙げ句、仕事まで失うし…」 母親は涙声で喋り出す。 「次男は犯罪を唆されて…警察のお世話になって…仕事を失うし…」 顔を両手で覆う母親。 「なんでこんなことに…自慢の息子だったのに…二人とも…私の後ろ姿を見て育ってくれて……」 泣きながら話す母親を横切り、部屋のカーテンを開けて窓を開けた。 熱気のような温風が入ってくる。 それでもアルコール臭のする部屋よりはいい。 アルコールの臭いは、記憶がよみがえる…。 「……恭一郎?」 窓を開けたまま、外の空気を吸っていた俺を、母親が呼ぶ。 「着替えろよ……だらしない」 俺はそう言って、部屋を出て階段を降りた。 アルコールの匂いが鼻について気分が悪い。 俺は全くアルコール臭のない、1階の店舗部分へ逃げた。
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