5. 君の真意を知る

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慶次郎の部屋で横になり休んでいた。 「兄貴、水飲む?」 壁に向かって横になっていると、背後から声がした。 起き上がって慶次郎から、コップを受け取る。 「…さんきゅ」 水を飲んで肩で口元を拭った。 空になったコップを受け取ってくれる慶次郎。 「…大竹は?」 「あの女がおかしくなったから、見てくれてる」 「あの女って…」 気持ちはわからなくもないが…。 慶次郎が母親を嫌ってるのがよくわかる表現だ。 「おかしくなったの?」 「泣いてたけど、兄貴の姿見て」 「そう…」 「何?死ぬの?」 「死なねぇよ」 思わず突っ込んだ。 俺はベッドに腰を掛けるようなかたちで座り直した。 「…大竹さんが兄貴見て、胆汁まで吐いてるって言ってた」 「悪いな、変なもん見せて」 「そんな意味じゃねぇよ。胆汁までってことは、吐くもんないのに吐き気と止まらなかったんだろ?どっか悪いの?」 心配そうに俺を見る慶次郎。 「大丈夫だよ。変なもん食ったからだ」 病んでるなんてことは言えなくて、そう言って笑って見せた。 「お前、ここに住んでんの?」 部屋は日頃使われている形跡がある。 「行くとこなくて…寝に帰ってるだけだけど」 「今、どうしてんの?」 「日雇いの仕事を…ちょこちょこ」 慶次郎の罪は軽くなるように真白が希望してくれていたが、一度目のホーム転落のケガだけでは萩山麗美の刑罰も軽くなる可能性がある為、硬膜下血腫の全治も足すと、慶次郎は不起訴にはならなかった。 ただ、執行猶予は付き、普通に生活出来ていた。 「執行猶予中でも職にはつける。美容師は続けないのか?」 「自分でしでかした罪だから仕方ないけど、黙って騙すみたいに雇って貰うのは気が引けるし、だからと言って申告する勇気もない…」 慶次郎はそう言って、床に座った。 気持ちがわからないわけじゃない。 だけど… 「現実逃避して向き合わなかったら、その分社会で生き残れなくなる。先のことはちゃんと考えろ」 俺の言葉に慶次郎は少し考えるような仕草を見せて頷いた。 扉のノックの音がして、大竹が顔を出した。 「おばさん、泣き疲れて居間で寝ちゃったんだけど、何か掛けるものある?」 大竹の問い掛けに、 「俺がやります」 と、慶次郎が部屋を出て行った。 大竹が部屋に入ってくる。 「“現実逃避して向き合わなかったら、その分社会で生き残れなくなる。先のことはちゃんと考えろ”って、誰のこと?」 大竹はニヤニヤして俺の横に座った。 「わかってるよ。俺だって慶次郎に説教出来る立場じゃない」 「わかってんの?」 大竹が俺を見て疑いの目を向ける。 「大竹、東京を出る。大阪辺りでやり直そうと思う」 俺の告白に、大竹の表情が一瞬真顔になった。 「決めたのか?」 「決めた」 「そんな身体で行けるのか?」 「…荒療治推奨なお前のセリフ?」 俺が聞き返すと、大竹は鼻で笑った。
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