6. 旅支度

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夜、仕事が終わった大竹も同席してくれて、東京を離れる話を居間で母親と慶次郎にした。 反応は予想通りではあった。 「なんで!?なんで恭一郎が東京を出ていくの!?アンタは被害者なんだよ!?」 母親は取り乱し、 「……」 慶次郎はノーコメントだった。 「イデアル辞めることになったのだって、おかしな話でしょ?恭一郎は被害者なのに!」 「母さん」 「トップスタイリストだったんでしょ!?加害者の兄が経営してるから、だから!?だからクビになったんでしょ!?そんな話ある!?」 「母さん、違うから。俺から辞めたんだ」 「そう言う方向に持っていかれたんでしょ!?訴訟を起こしなさい!!」 「母さん」 「黙ってこのまま引き下がるなんてダメよ!!訴訟を起こしてそれなりの―」 「うっせぇーなッ!!クソババァっ!!」 慶次郎が声を上げた。 居間が静まり返る。 「…な、なんて口の聞き方なの?慶次郎」 母親が声を震わせて話す。 「うっせぇからうっせぇーって言ったの」 慶次郎は溜め息をつく。 「慶次郎、アンタは黙ってなさい。アンタと恭一郎は違うのよっ。アンタは仕方なくても、恭一郎は辞めなくても―」 「あのさぁ!」 慶次郎は母親の言葉に被せた。 「アンタ本当に頭空っぽだな。兄貴の気持ちとか考えないわけ?」 「えぇ?」 「普通に考えて、イヤだろ?加害者の兄貴の店とか、加害者が居た店とか、普通の神経だったらそんなとこでずっと働けない」 「だけど―」 「だけどって言えるのは兄貴だけ。アンタに関係のない話だろ。少しは黙っとけよ」 慶次郎の言葉に、母親は唇を噛み締める。 慶次郎はそんな母親の反応にまた溜め息をついた。 居間の丸いローテーブルに大人4人、異様な空気。 「まぁ……もう辞めたから。イデアルには育てて貰ったし、感謝もしてる。新城代表に訴訟なんて有り得ない」 俺は静かに母親に言った。 「…どこに行くの?」 母親の問い掛けに、 「それ……聞かないで貰っていい?」 と俺は答えた。 みんなが俺を見る。 「行き先を言わないで出ていくの?アンタ、母さんを捨てるの!?」 「そうじゃない」 「じゃぁ!行き先くらい言ってちょうだい!居場所を知らせなさい!」 俺は首を横に振る。 「恭一郎ッ!」 母親が俺の側に近付いて腕を掴んだ。 「家族なんだよ!?そんな話がある!?」 涙を溜めて訴える母親。 「家族…」 ポツリと言う俺。 「そう!家族でしょ!?行き先も知らせたくないなんて…そんなことっ」 母親の声は、今の俺の頭に酷く響く。
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