6. 旅支度

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真白は、瑠璃さんを一切悪く言ったことがない。 俺が、真白から学んだ大事な気持ちだ。 「お前に、恨みなんてないよ」 俺の言葉に、慶次郎は大きく息をして、涙を堪えた。 俺は慶次郎の肩を叩いて、立ち上がる。 「兄ちゃん、これっ!」 通帳と印鑑を持って立ち上がり、俺に差し出す慶次郎。 俺はそれをジッと見つめ、小さく頷いた。 「やっぱり、それ、慶次郎にやるよ」 「だから、兄ちゃんは親父のことなんか―」 「親父さんにやるんじゃない。慶次郎にだ 」 俺の言葉に戸惑う慶次郎。 「日雇いはやめろ。ちゃんと職につけ。そしたら、介護費用も何とか捻出出来るだろ?」 日雇いで食い繋ぐなんて、ギャンブルに等しい。 「真白だって、慶次郎には腐って欲しくないはずだ。だから、ちゃんと立ち直ってくれ」 「…」 「なっ?」 慶次郎はギュッと目を閉じて小さく二度頷いた。 「この金は、立ち直る為に使えばいい。何もなしじゃ、行き詰まるだろ?お前の判断で使えばいい」 「…いつか返す」 俺は首を横に振る。 「返すっ!!」 真っ直ぐに見つめられて言われて、その目が力強かった。 それを目標に頑張れるなら、それがいい。 俺は軽く何度か頷いた。 結局、母親を待たずに俺は帰ることにした。 玄関まで見送ってくれたのは慶次郎。 「慶次郎…」 靴を履きながら、言おうか言うまいか悩み、やっぱりと思い立つ。 「母さんのこと…」 「わかってるよ」 全部を言う前に慶次郎が言った。 「あの女、嫌いだけど、一応母親だし…ここ住まわせて貰ってるし…干渉はしないけど観察はしとく」 背中を掻きながら慶次郎はそう話してくれた。 有り難いと思った。 「…頼む」 俺の言葉に慶次郎はまた苦笑い。 「なんか…兄ちゃんらしいね」 「えっ?」 「兄ちゃんが、簡単に家族を捨てられるような人間なら…兄ちゃんはこんなに苦しまなかったと思う」 「慶次郎…」 「でも…そしたら、今の俺は居ないと思う…」 そう言って貰えたら、俺が頑張った意味がある。 「…元気で」 最後に慶次郎はそう言って送り出してくれた。
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