6. 旅支度

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――…… 真白と住んだハイツを引き払うのは、保留にした。 大阪に馴染めるかどうかわからない。 保険のような感じで、暫くは残すことにして、俺は大阪行きを決めた。 「そんなので金もつのかよ」 品川駅の待ち合い室で大竹と並んで話していた。 「いや、もたない。収入ないから」 「じゃ、引き払えよ」 「でも引っ越し先まだ決まってないし」 「決まってなくても別にいいだろ。無駄に家賃払うより…何のために引き払わないの?」 「保険みたいなもんだよ。家具もある」 俺の返答に、大竹は深い溜め息をついた。 「お前…東京から大阪まで家具運ぶのいくらすると思ってんの?ある程度処分してコンパクトに引っ越ししなきゃ金かかって仕方ねぇぞ?男の一人暮らしなんてそう必要な物もねぇだろ?」 「処分は…しない」 テイクアウトしたアイスコーヒーを飲みながら言う。 「なんで?……お前、まさかこの期に及んで真白ちゃんとの思い出があるからとか言わねぇだろうな?」 俺は苦笑いで誤魔化す。 「マジかよ…」 ドン引きの大竹。 アイスコーヒーを空にして、氷を右に左に傾ける。 「真白って、物欲があんまりなくて…」 「はっ?…そうなの。それがどうした?」 「誕生日とかクリスマスとか何かアクセサリーでもってリサーチするんだけど、全部言ってくれなくて」 「はぁ」 「桜を見に行きたいとか、海をみたいとか、そんなのばっかりで」 「お前が金ないの知ってたからだろ」 大竹は興味なさそうに言った。 「いや、まぁ、そうなんだけど。一緒に住むようになったら、家具をリクエストするようになったんだ」 「……へぇ」 「例えばうちのソファは真白の25歳の誕生日プレゼント」 「あっ、そう」 大竹には全く興味がないらしい。 「だから、簡単に処分できないよ」 それは、言い分けだった。 真白との想い出がいっぱいの家具を、捨てられる気がしない。 「まぁ、何でもいいけど、早く職を探せ」 大竹が話をまとめた。 掲示案内版に出た新幹線の案内表示。 それを確認してから、俺と大竹はホームへの階段を下る。 「真白に…手紙を書こうとしたんだ」 それは昨夜のこと。 「東京離れますって?」 「まぁ、そんな感じ。でも一行でペンが止まった。知らせて、どうなんだって思って」 「まぁ、出戻るかもしれないし、知らせて恥じかくよりいいんじゃね?」 大竹の言葉に二人で笑った。
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