6. 旅支度

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ホームに降りて間もなく、新幹線がホームに入るアナウンスが流れる。 「長距離の電車大丈夫か?」 「まぁ、こだまだから、停車駅も多いし…」 乗車時間は長いけど、万が一の為に停車駅の多い新幹線を選んだ。 ボストンバッグを肩から担ぎ、ホームに入ってくる新幹線の風を感じる。 「無理だと思ったら帰って来いよ」 新幹線がホームに入る車両音に消えそうなくらいの声で言った大竹の言葉。 俺は頷いて答えた。 「裁判もあるから、ちょくちょく帰ってくるよ」 そう言うと大竹も頷く。 新幹線がホームに到着して、扉が開く。 「じゃ、見送りご苦労さん」 俺の言葉にお互い笑う。 俺は新幹線に乗り込んだ。 大竹の方を見る。 「大竹」 「ん?」 「ありがとな」 照れ臭いけど、素直に言ってみた。 「今生の別れかよ」 大竹は笑う。 「お前が居なかったら…俺、干からびてたかも」 新幹線の出発を知らせるアナウンスと警告音。 「この恩一生忘れんな」 大竹の言葉に俺は笑った。 「ちょくちょく干からびてないか確認しに行ってやるから」 扉が閉まる直前に大竹は言ってくれた。 窓越しに、笑って見せた。 もちろん不安はある。 大竹に頼りきりだったここ最近。 頼れる人間の居ない場所で、病気の俺が生きていけるのか。 だけど、ぬるま湯に浸かったままだと、そこから抜け出せなくなると思った。 俺の直感。 新幹線が動き出すと、柄にもなく、窓越しの大竹に小さく手を降った。 “…頑張れ!” 大竹の口がそう動いた気がした。 すぐに窓から大竹はフェードアウトする。 前に進む新幹線の中で、大竹に貰ったエールを噛み締めた。
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