7. 光の射す方へ

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翌朝、9時頃に家を出て、少し散策してみた。 今日は休みだからゆっくり出来る。 繁華街を抜けて、高速道路の下をくぐり抜けて少しすると住宅街を見つけた。 Googleマップで場所を確認しながら歩く。 何となく地理関係が見えてきた。 街中にある小さな公園を見つける。 缶コーヒーを買ってその公園のベンチに座った。 目の前に柵付きの砂場があり、小さな子供が数人、砂場遊びをしている。 その側で、母親らしき女性が数名見守っていた。 ボーッと公園全体を眺めながらコーヒーを飲む。 赤ん坊はいつか立って、歩いて、話して、遊び、知恵をつけ、学び、自立していく。 溜め息をついて、下を向いた。 いくら考えても、答えは見えない。 この世に誕生してしまった、半分血の繋がりがある人間を、ずっと無視して生きていけるだろうか。 俺が父親を求めた時期があるように、彼だって… コロコロと足元に黄色い小さなボールが転がってきた。 俺がそれを手に取ると、すぐに幼い男の子がそれを取りに来た。 少し緊張している様子。 「はい…」 ボールを差し出すと、男の子はホッとしたように手を伸ばし、それを取った。 「ありがとぉ」 笑顔を見せた男の子が、母親らしき人の元へ走っていく。 こちらを見ていた母親らしき女性が、俺に会釈した。 俺も軽く頭を下げた。 ボールを見せる男の子の頭を優しく撫でる女性。 俺は、家族と言うものに縁遠い人間なのかもしれない。 暫くして公園を出て、ブラブラ歩いた。 小さなお店が建ち並ぶ。 その中に美容室も何軒も見つけた。 大きな店ではなくても、個人経営のこんな店にすればよかったと、少し思った。 でも、寮完備は外せない。 個人経営のお店だと、寮はさすがにないだろう。 一軒、カフェみたいな作りの真っ白な壁に小さな窓がある美容室を見つけた。 女性客を見送る男性スタッフの姿を遠目に見て、雰囲気がいいなと思った。 女性客が去り、男性スタッフがお店に戻ると、俺はその店に近付く。 壁に何かが張られてある。 真っ白い壁に求人を貼っているから、目立つ。 俺はその求人の張り紙を見た。 可愛らしい字とイラストで、求人内容が綴られていた。 正社員でもなければ、寮もない。 これは、現実的ではない。 横にあるお店の木で出来た扉が突然開いて、俺は驚いた。 顔を覗かせたのはさっきの男性スタッフ。 オシャレメガネに白シャツの爽やかな同い年かちょっと上くらいのお兄さんだった。 「求人にご興味が?」 にこやかに問い掛けられた。 「あっ…いや…」 「ぜひ!どうですか!?」 「あっ…別で働いていて…寮があるとこじゃないと厳しくて…でも、雰囲気いいなって思って見せて貰ってました」 そう正直に話すと、男性は理解したように頷く。 「今、お客様帰られて、誰も居ないんでよかったら、中見ます?」 親切…。 「いいんですか?」 「どうぞどうぞ」 大きく扉を開けて、中へと案内される。 中もこじんまりとした感じだけど、シンプルでカフェみたいな内装。 アクセントにある木の置物がお洒落だった。 「雰囲気いいですね」 「ありがとうございます。あっ、でも、姉夫婦の店なんですけどね」 その男性はそう言って笑った。 「お姉さん?」 「そうなんです。俺、普段は堀江のサロンで美容師してて、ピンチヒッターでたまにここに」 「堀江?」 「堀江…えっ、あっ、地元の人やないんですか?」 「あっ、すみません。東京から出てきたばかりで」 「あぁ!なるほど」 男性は理解したように頷き、店奥のカウンターに入る。 セットチェアは3台。 シャンプー台は2台。 俺が店を見渡していると、使い捨てカップに入ったコーヒーを男性が差し出してくれた。 「さっきのお客様の残りやけど、よかったらどうぞ」 「あっ、ありがとうございます。すみません」 俺は両手で受け取った。 「どこで美容師してはるんですか?」 そう問いかけられて、俺は店名と場所を言ってみた。 「あぁ……そこ、紹介で?」 「いえ、求人に載ってて、寮完備だったんで」 「勤務辛ないですか?結構色んな噂聞くけど…」 「勤務自体は別に…、ただ、ちょっと馴れなくて」 俺の話に、男性は何度も頷きながらコーヒーを飲む。
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