7. 光の射す方へ

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この男性は、色んな話を教えてくれた。 今の大阪で一番サロンが熱いのはどことか、この辺りは激戦区だとか、地図を出してきて教えてくれた。 お姉さんがお産で、最近ピンチヒッターでよく入っているとかで、堀江のサロンも時給契約だからなんとかなってるけれど、30歳過ぎて宙ぶらりんなのも不味いと思い始めていると話した。 「なんか、めっちゃ話してもて、ごめん」 「いや、めっちゃめっちゃ学ばせて貰ったんで、逆にありがとうございます」 お礼を言った。 「いくつですか?」 「あっ、30です」 「マジですか!俺、31です。近いですね」 美容師はわりと人とのコミュニケーションが得意だけど、この人とは本当に自然に打ち解けた感じだった。 20分くらい話をして、お客様の来店で切り上げた。 お客様を席に案内した男性は、店を出ようとする俺を見送ろうと出てきてくれた。 「見送りなんていらないですよ」 「いや、ホンマに楽しかった。また来て下さい」 「ありがとうございます」 「あっ、俺、藤木。藤木剛」 「墨です。墨恭一郎」 自己紹介を交わして別れた。 小さな小窓から、店の中が見える。 お客様の首にタオルを掛け、クロスを掛ける藤木さんの後ろ姿。 チラッと見て、その場から離れた。 いいお店だと思った。 コンセプトもしっかりしているし、使っている薬剤やケア用品にもこだわりが見えた。 藤木さんとお客様の距離感も、一瞬だけしか見てないけどよかった…。 少しだけ、イデアルを思い出した。
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