7. 光の射す方へ

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俺は九条先生と詳細を話し合う為、次の休みで東京に戻った。 残している東京のハイツに来て貰い、そこで話し合った。 「墨君には、検察官に意見すること、公判に在廷すること、被告人質問をすること、情状について証人尋問をすること、検察官の論告のように意見を述べて求刑することの権利が認められる」 細かな説明を九条先生から受けて、自分の迷いを九条先生に話した。 「自分がどうなるかわからないんです」 「うん?」 「麗美さんを前にして…正常で居られるのかわからない」 正直に話した。 九条先生は、俺をジッと見つめて、少し間を置いてから、 「被告人を前に、被害者は正常ではいられないよ」 と静かに言った。 「そうじゃなくて…」 口ごもる俺。 「墨君、君から被告人への憎悪を感じないのはどうしてだろう…?」 九条先生は静に俺に問い掛けた。 真っ直ぐに見つめられて、俺は目をそらす。 「墨君」 九条先生はテーブルに何かを置いた。 それを見ると、弁護士バッジだった。 「今、僕は弁護士としてではなく、九条学として話を聞くよ。取り繕わなくていい」 九条先生はそう言ってから、 「口はかたいよ」 と微笑んだ。 糸がゆるむ。 気持ちに張り巡らしている糸が… ゆるめていいのだと、九条先生が言ってくれているみたいだった。 誰にも聞かれたくない、気持ち。 知られたくないのに、この罪を誰かに聞いて欲しい。 「…愛しいと思って抱きました」 グッと拳を握り締めて言った。 「完全に真白だと思ってました」 「うん」 「子供が出来てもいいと思ってしてたと思います」 それは、快楽に溺れながらも頭に過った自分本意の気持ち。 「真白と結婚したかった…」 込み上げてきた気持ちが視界を揺らす。 「ご両親に許しを得られる気がしなくて…既成事実があればと…そんな気持ちが芽生えていたのも事実でした」 「うん…」 「あの夜に限ってではないけれど、真白のお父さんに突き放されて…」 「うん」 「そんな風に思ってしまっていたのも事実なんです」 「うん」 九条先生は、何も言わずに“わかる、わかる”と言うように頷きながら聞いてくれた。 「薬で錯覚していたとは言え、俺は麗美さんを“愛しい”と思って“子供が出来ればいい”と思って抱いていた…」 「うん」 「麗美さんが勘違いしても…おかしくない」 俺は… 「反論なんか出来る立場じゃない…」
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