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「そこにつけ込まれたとは思わないの?」
「それは思います」
「なのに自分を責めるのはどうして?」
「事実、俺の気持ちに偽りはなかった」
「天宮さんだと思ってたんだから仕方ないよ」
「そうです!だから、あれは偽物じゃないっ!」
声を上げた俺に、九条先生は冷静だった。
「被告人は、それを自分に向けられたものだとは思っていない。天宮さんに向けられたものだと認識して、虚しくなって最中に君に真実を告げている」
九条先生が説明する。
「墨君、萩山麗美被告は、君のその真っ直ぐ向けられた天宮さんへの気持ちを利用したんだよ」
唇をギュッと噛む。
「萩山被告が犯したこの罪は実に巧みだ。10代の頃から知る信頼を利用し、君の気持ちに寄り添うフリをして君の気持ちを掻き立てた。不安や焦り、悔しさややるせなさから上手く酒を飲ませ、薬を飲ませた…心理戦とも言える」
九条先生は俺の側により、肩に手を当てた。
「彼女の罪は深い。君に落ち度はない」
首を横に振る俺に、
「萩山被告が子供を望む歪んだ気持ちと、君があの晩感情的に子供を望んだ気持ちが合致したこと、それが不運にも叶ってしまったことは悲劇としか言いようがない」
九条先生が必死に話してくれる。
「だから―」
「ご両親を無視して、既成事実を作ってしまおうとした罪悪感や後悔と、萩山被告の罪とは別だよ!墨君!」
九条先生が力強く、一瞬も目をそらさずに話してくれる。
「しっかりするんだっ!」
「真白を傷付けた…」
「そうだ。それを受け入れ理解した、天宮さんの気持ちを考えてやりなさい!!」
九条先生のその一言で、言葉を飲み込んだ。
「彼女は、君を信じた」
そう、真白は…信じてくれた。
「目を背けたい事実にぶち当たりながらも、もがき苦しみながら、君を信じた。そして、明るみになった真実に向き合い、一生懸命君を支えようとしていた」
“恭ちゃん”
真白の姿が脳裏に過る。
「墨君、今の姿を天宮さんが見たら…」
その言葉にドキッとする。
「きっと、彼女は心配して心を痛める」
真白の泣いてる姿が頭を過る。
「彼女の為にも、自分が受けた犯罪行為を認識し、向き合い、闘うんだ」
「真白の為にも…?」
「そう。一途に向けられた気持ちが天宮さんへのものだったことを、歪めてはいけないよ。犯罪者の気持ちを汲む必要なんかない。大事なのは、君自身だ…」
「俺は……」
「じゃぁ、天宮さんの為にでもいい」
「…真白の為?」
「そう。事実は変わらない。だけど真実をそこに証明すれば、印象は変わる。天宮さんに向けた気持ちを濁らせるな。事実は変わらないけれど、君の真実を証明することは、天宮さんの傷を癒すことにもなる」
「癒す?散々傷付けたのに?」
涙が溢れた。
「自然に癒える傷と誰かに手当てして貰わなければ癒えない傷もある。完璧には治らないかもしれないけれど、懸命な手当ては絶対に無駄にはならない」
それは、わかる。
「君が萩山被告に向かい合うことは、君の傷はもちろん、天宮さんの傷を癒すことに繋がる」
そうか…
真白にしてやれることは、
もう何もないと思っていた。
でも、まだ……あったんだ。
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