8. 四苦八苦

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『何だよ、その女、こぇーよ』 仕事終わりの真夜中に、大竹に電話した。 コンビニで夜食を物色しながら、話を聞いて貰った。 普通なら話さない話だけど、不安や恐怖は誰かと共有した方がいいとカウンセリングの先生に言われている。 こんなくだらない話を、真夜中に聞いてくれるような奴は一人しか居ない。 『可愛いの?』 「あぁ~…まぁ、派手な美人さんって感じかな」 サンドウィッチとプリンを選んで会計を済ませた。 『お前ももう少し上手くあしらえなかったの?』 「いや、まぁ…ハッキリ言った方がいいかと思って…」 『昔のお前の方が上手く対処したんじゃね?』 確かに言えてる。 萩山麗美とのことがあって、臆病になっているのは確かだ。 『でも、まぁ、仕方ないな。気をつけろ』 大竹は投げやりにそう言う。 人通りが疎らな商店街を歩く。 「他人事だと思って」 『それくらい自分で何とかしろ。別にヤバイ奴と繋がってるわけじゃないんだろ?』 「多分」 『はぁ?大丈夫かよ…』 呆れ声の大竹。 『あっ、そうだ!今、うちの母ちゃん、姓名判断に凝ってて』 思わず笑ってしまう。 「何やってんの?おばさん」 『俺もはじめはバカにしてたんだけど、結構当たるんだよ!』 「はぁ?お前どうしたの?」 神様なんて居ないとか言ってた奴が厄祓いをすすめてきたり、占いなんて信じないと言ってた奴が今度は姓名判断? 『お前のことも調べて貰ったわけ!そしたらドンピシャ!』 「ドンピシャ?」 『時として悪意を持った誰かに利用されてしまうとか、度重なる不運とか、災難続きとか』 「酷いな」 思わず笑ってしまう。 「誰にでも当てはまるんじゃねぇの?」 『それがだな!天性の才能とか温和で才能に恵まれているとかも出てた。なっ!お前だろ!?』 珍しく興奮ぎみの大竹。 「へぇ~」 『あっ、聞いてねぇだろ?』 「聞いてるよ。それで、俺はどうしたらいいわけ?」 『……』 商店街を出て、脇道に入る。 「対処とかないわけ?」 『…あれだ』 「ん?」 『名前変えろ』 無茶苦茶だ。 「はぁ!?」 『姓名判断なんだから仕方ねぇだろ?名前変えろ』 「意味不明」 月明かりの下を歩きながら、思わず吹き出した。
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