9. 救世主

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人の流れに沿って歩き、改札に向かった。 流れに乗ったまま改札を出る。 右も左もわからない。 とにかく、地下みたいだから地上に出ようと思った。 案内板を頼りに歩き、地上へ続く階段を見つけた。 それを昇って地下から出る。 「神戸…三宮?」 行くあてなく着いた先がここだっただけで、何も目的はない。 帰り方もわからず、端に寄ってスマホで検索する。 だけど、そもそもどこに帰るんだ? 溜め息が出た。 三宮に土地勘もない。 山側が北、海側が南…それくらいの知識しかない。 縁も縁もない地域。 何か飲みたくて自販機を探す。 駅を抜けて高架下で自動販売機を見つけて、お茶を購入して飲んだ。 植え込みの台に腰を下ろして、ボーッと人の流れを見た。 何も考えずにここまで来たけど…… どうするよ。 深く溜め息をつく。 俺は一体何をやってるんだろう。 三十にもなって、人生にさ迷うとか…洒落にもならない。 風が吹いて肌寒かった。 スマホの振動を感じて、パンツのポケットからスマホを出すと、相手は大竹だった。 遠隔カメラで見てるんじゃないかってくらいタイミングがいい。 大きく息を吐いて着信を取る。 「もしもし?」 『うぉっ!出たっ』 「掛かってきたら出るよ」 『仕事中じゃねぇの?』 「知ってて掛けてきたの?」 『留守電入れとこうと思って。何?休み?』 大竹に話せば、また厄とか、名前とか…何か理由をつけて笑ってくれるだろうか。 『恭一郎?』 「…ん」 『なんかあったか?』 「…いや」 『あったな』 「…」 『言ってみろ。ほれ』 俺の中の小さなプライドが迷う。 『意地張ってんな。言え』 結局、一連の流れを話してしまった。 何も言わずに最後まで聞いた大竹が一番始めに発した言葉は、 「その女、相当腹立ったんだろな。自分に靡かなくて」 と言って、その後ジワジワ笑い出した。 「…大竹?」 『いや、悪いっ…でも、ほら、吐かれたらプライドズタズタだろうなって思って。相手はお前の状態なんて知らないわけだから』 笑いを堪えながら言う大竹。 『相当ショックだと思うよ。告白して吐かれたわけだから』 言われてみれば、そうかもしれない。 「だいぶ失礼だな」 『いや、いんじゃね?そんなクソオンナ』
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