12. 一区切り

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判決が言い渡されたのは、萩山麗美が犯した犯罪の公判が全て済んだ後。 『被告人を懲役3年に処する』 ちょうど、真白と別れてから1年が過ぎた頃だった。 俺は、吾郎さんの店で世話になりながら暫く過ごしていたものの、吾郎さんが少しずつシザーを握れなくなっていく過程を側で見ているしか出来なかった。 自分に店なんて持てるわけないと思いながらも、吾郎さんは酒を飲むと俺に発破をかけてくれた。 そして、応援してくれた。 「恭一郎、アンタの腕は、俺が保証するで」 これ以上失うものはない。 何かチャレンジして、自信も欲しかった。 無謀なチャレンジだけど、もし成功したら、真白に会いに行ける自信を持てるかもしれない。 そんな、よこしまな気持ちも持ちながら、俺は開業を決めた。 吾郎さんには全部正直に話した。 金もない、伝も人脈もないし、自信もない、でももし出来たら真白に会いに行けるんじゃないかって。 「ええがなええがな!恭一郎、目標を持って生きる人間は強くなれるで」 「無謀でも?」 「無謀かどうかは、アンタ次第や」 確かにそれはそうだと思った。 一から勉強をした。 学習能力も記憶力もないと思っていた自分だけど、店を開くとなればそんなこと言ってられない。 吾郎さんみたいに資産があるわけでもないし、店をこの先維持して食べて行く為にはある程度入る造りにしなければならない。 そうなれば一人では無理だし、誰かを雇うと自ずと責任は重くなる。 人生でこんなに活字を読んだことはないと思うくらい本を読み、学び、わからないことは吾郎さんに叩き込んで貰った。 造るのであれば、納得したものを。 「多少金が掛かっても空間コーディネーターに頼んだ方が確実やで」 そうアドバイスを貰ったものの、店を造るとなると纏まった金額が必要で、自分の貯金だけでは無理。 だからと言って、何の実績もない俺に金を貸してくれる銀行なんて…と思っていたら、吾郎さんが貸してくれると申し出てくれた。 「貸したるがな」 そう笑って言ってくれたけど、しっかり書面を交わし、利子ももちろん払うように取り決めた。 そんなこんなで、空間コーディネーターを雇うのに躊躇していたら、藤木さんが池本さんに頼めばいいと教えてくれた。 はじめは恐れ多いと断られたものの、2度3度お願いしたら引き受けてくれた。 彼女のセンスは俺もあると思ったし、全くの知らない人にイメージを伝えるよりずっと伝えやすかった。 彼女は休みを利用してはこちらに来てくれて、店の開店準備の為に図面やカタログを見て、俺のイメージに合わせてくれた。 もちろんいつも藤木さんも一緒で、そのうち彼は、 「俺のこと雇ってや」 と言い出した。 はじめは冗談だと思っていたけれど、いよいよスタッフのことも真剣に考えなくてはとなったタイミングで、彼は仕事を辞めて本当に履歴書を持ってきた。 これには池本さんも知らされてなかったらしく、驚きを隠せない様子ではあった。 藤木さんは信頼できるし、彼の腕も確かだった。 彼らを知ってしまっている以上、雇うのに躊躇したけれど、彼の申し出は素直に嬉しかった。 池本さんが彼の決断に反対している気持ちは感じたけれど、俺は彼を雇うと決めた。
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