19. 答え合わせ

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「こちらのお客様は、俺が担当する」 藤木にそうハッキリ伝えた。 驚いた表情で俺を見上げる藤木。 「えっ?そやけど…店長、今日、予約びっしりやで?」 藤木は小声で言いながら、シザーとコームをシザーケースに仕舞いながら立ち上がる。 「それに、例外なんかつくったら、ややこしいで」 さっきよりももっと小声で藤木は言う。 わかっている。 どのお客様も平等に接する。 例外は後々首を絞めることになる。 だけど、これだけは譲れない。 「もう随分前からずっと、担当させて貰っている方なんだ」 そう言って、鏡越しに感じていた視線に目を向けた。 俺を見上げる真白の視線と、俺の視線が鏡越しに繋がる。 真白は3年前と変わりない。 今にも泣き出しそうな顔で俺を見てる。 どんな想いでここまで来てくれたのか…。 「…少し、お待ちいただきますけど…いいですか?」 真白に問い掛ける。 「…はい」 小さな声で、微かに頷いて彼女は返事した。 その返事に、思わず表情がゆるんだ。 真白から離れて仕事に戻る。 「千穂さん、ちょっと時間掛かると思うから、彼女気に掛けて貰ってい?」 クロスを巻いたまま座って待つ真白のケアを千穂さんにお願いした。 「う、うん。わかった」 俺が戻ろうとすると藤木に止められる。 「意味あるんやんな?」 「…ごめん」 「公私?」 「私」 コソコソ交わした言葉に、藤木はニヤッと笑って俺の尻を軽く叩いた。 仕事に戻る。 真白が見てる。 どうして来たのかわからない。 だけど、ガッカリさせるわけにはいかない。 彼女が願ってくれた姿を、見せるんだ。 気持ちを落ち着かせて、仕事に集中した。 さっきのヘッドスパのお客様のカットに入る。 「お待たせして申し訳ないです」 「かまへんで。そない待ってない。あのさっきの兄ちゃん、ブロー上手いな」 「古泉ですか?そうですね、彼のシャンプーも格別ですよ」 「ホンマか」 「はい。ヘッドスパも上手です。メーカーの研修もかなり受けて貰ってるので」 「ホンマか。ほんなら、次はあの兄ちゃんに頼もうかな。今回断ってしもたけど」 「ぜひ」 お客様との会話は自分の気持ちを落ち着かせた。 チラッと真白の方を見ると、千穂さんが真白に飲み物を用意してくれていた。
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