ケンちゃんとわたし

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商店街に戻ると、こんな真夜中だというのに、薄っすらと人影が見えた。 距離を置きつつもじっと目を凝らして見てみると、その人影は、昼間に青年と話していたあの女性だった。 辺りをせわしなく見渡してはウロウロし、あらゆる方向に身体を変えて、首を左右に動かしている様子をみると、どうやら何かを探しているようにも見えた。その動作からして、何やらただ事ではないと思った私は、すやすやと寝息を立てて寝ているケンちゃんを起こさないようにしっかり慎重に背負ったまま、思い切ってその女性の方へと自ら向かっていった。 女性はやがて私たちの存在に気づくと、あの時見せた、驚きの表情を一瞬浮かべた後、ひどく安心した様子で、パタパタと駆け寄って来た。 「よかった…まだいた…よかった…」 「あ、あの…何がご用意でも?」 「あっごっごめんなさい。ほ、ほら折角戻って来てくれてたのに何も声をかけられなかったから…あの時はごめんなさいね…おばあちゃんいつもあんな感じだから。」 「あの、私たちは今日初めてあのお豆腐屋さんに来たんです。戻って来たとはどういう事でしょうか?」 「え?おっ…覚えて…あ、いやごめんなさい、人間違いだったみたい。ほんとにごめんなさい、聞かなかった事にして!」 「は、はあ。」 その女性はひどく落ち着かない様子で汗を額ににじませながら会話を続ける。 「こ、こんな夜分遅くですけど、今までにどちらに?」 「あれからこの子が神社に行きたいと…ほら、この先に脇道があるじゃないですか、そこの神社に行ってまして…気づいたらこっこんな時間になってて。べっ別に怪しい者じゃないですからね!?不審者とかじゃないですから!いや、説得力ないか…あはは。」 「大丈夫!大丈夫です!私も人のこと言えませんから…ははは。」 そんなお互い落ち着かない状態の中で、ぎこちない会話を数分交わした後、そのお豆腐屋さんの女性は自分の自宅へ案内してくれた。 彼女は自らの名前を「ユキ」と名乗った。 ユキさんに案内されるまま、少しばかり息の合った二つの足音は夜の商店街に響いていった。
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