花火

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花火

 卒業式も終わり、とうとう好きな人に想いを伝えられないまま全てが終わってしまった。  僕は県外の大学へ進学するが、想い人は県内大学への進学であるため、例え告白が成功したとしても遠距離恋愛になってしまう。それが理由で自分の気持ちを隠したままこの日を迎えた。  ――無意識のうちに走っていた。今日は大人しく家で過ごす予定であったのに、気づけば地元のお祭り会場の手間。息を切らし、今更恥じらいを覚える。咲がこの祭りへ来るかどうかなんて分からないし、来ていたとしても会えるかどうかも分からない。  その上、彼女は彼氏や友達、家族と来るに決まっている。二人きりになれるはずがない。そもそも、咲に会うためだけにこのお祭りへ来たことが切なく感じる。  並んでいる屋台の間に人の波ができていて、僕はそれに流されて会場を何周かした。しかし、咲と会うことはなかった。  小腹が空いたので、その辺の屋台でフランクフルトを買って、祭り会場から少し離れた公園のベンチに座って食べた。そして月を見上げて思う。虚しいな、と。 「……大智?」 「えっ? 咲?」  声ですぐにわかった。そこにいたのは想い人の咲である。 「偶然だね。大智も来てたんだ」 「まぁね。友達とはぐれたからここで小腹を満たしていたところ」  こんな時のために用意していた嘘だ。 「そうなんだ。実は私も同じく」  彼女はそう言って焼き鳥の入った袋を見せた。 「隣、いいかな?」 「もちろん」  彼女が隣に座ると、ふんわりと石鹸のいい香りが鼻をかすめる。急な出来事に緊張したが、少し彼女と話すだけで緊張は解けて、楽しい時間を過ごした。そうして、隠していた気持ちが頭を出す。このままずっと話していたい。このまま二人で最後の花火を見たい。そんなことを考えた。  しかし、彼女は焼き鳥を食べ終えると 「そういえば、友達のところに行かなくて大丈夫なの?」  と言った。 「そうだな、咲の友達もついでに探そうか」 「うん。ありがとうね」  それぞれの友達を探すため、会場へ戻った。 「ねぇ、あのチュロス美味しそうじゃない?」 「ほんとだ。せっかくだから、食べようよ」  傍から見れば恋人のようなやり取りである。咲は嫌ではないのだろうかと少し心配になった。  そんなこんなで、お祭りを満喫していると、どちらの友達も見つかることなく小一時間が過ぎていた。お祭りのフィナーレを飾る花火の時間がやってきたのだ。  あちらこちらの照明が波のように消え、周囲はより一層騒がしくなる。 「もうすぐだね」 「うん……でも、咲は 友達と見たかったんでしょ?」 「そうだけど、次、こんな機会があるか分からないし、奇跡だと思わない?」 「そうだね。奇跡だよ。本当に」  咲と会えたことは奇跡だ。そして、二人きりで花火を見ることができるなんて、最高だ。  色とりどりの火が夜空を照らし、盛大な音を立てて落ちていく。咲は花火のような輝かしい表情を浮かべている。彼女の横顔を眺めていたら、彼女と目が合った。花火のせいか、彼女の頬は真っ赤に染まっていた。
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