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少し肌寒くなってきた秋口のあの日、もし渡り廊下を通っていなかったら、先輩を見かけていなかったら、きっと私の学校生活は全く違ったものになっていただろう。
「夕実ー、早くしないと昼休み終わっちゃうよ」
「土倉さーん、次の化学、実験室だよ! 新教室棟だから早く行かなきゃ。もう、先行くからねー」
「あ、皆待って待って」
私はどうも準備に人よりも時間がかかるのか、よくこういうことになる。今日もまた明梨たちに置いて行かれてしまった。
「行っちゃった……。早く準備しなきゃ」
教科書やノートを持って慌てて教室を出て、やや急ぎ歩きで新教室棟への渡り廊下へ向かっていると、そこには一人の生徒がいた。立ち止まり、窓から下の光景をじっと見つめているようだった。
薄い黒だが、光の加減によってはわずかに紫色にも見えるような不思議な色合いの瞳に真っ黒のロングヘア。凛とした雰囲気を醸し出しているその人に、私は目を奪われ、思わず立ち止まっていた。毎週何度も通っている、何の変哲もない廊下が、彼女がいるだけでいつもと全く異なるように見えた。
数秒後、我に返り慌ててまた歩き出す。頭の中ではさっき見た人のことを考えていた。リボンの色からして二年生の先輩だろう。今まで見たことのないような、綺麗な人だった。しかし、見た目の美しさ以上に、あの先輩の持つ不思議な雰囲気に、とても惹かれていた。周囲に誰もいなくても全く意に介していないような、少し浮世離れしたような様子。いつも誰かと一緒にいないと落ち着かない私とは全然違う。そんなことを考えていたら、いつの間にか化学実験室に着いていた。慌てて時計を見るとぎりぎりの時刻になっていたので、急いで明梨たちのところへ向かった。
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