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まるで子守唄だなあ……
担任の男の先生はぼそぼそ早口で何を言っているのかわからない。念仏にしか聞こえないので、本人にさえちゃんと届いているとは思えないのだが、改善する様子も見られないので、たぶん全く気にしていないのだろう。
ホームルームで担任の話が終わるとほぼ同時に三組の教室を飛び出したのは、真っ黒に肌が焼けた青山翔太だった。
試験前のため、本日から部活停止期間に突入する。毎日毎日練習に明け暮れていたラグビー部の翔太はここぞとばかりに張り切っていた。何を張り切っているかというとそれは……
「由偉!行くぞぉー」
二組の窓際まで急ぎ足で入り込むと、太い声が頭に降りかかってくる。面倒くさそうにほんの少しだけ顔を傾け翔太の顔をチラ見するのは、佐野由偉。翔太と同様、毎日サッカー部の練習に明け暮れる彼だったが、テンションの高さは全く異なっていた。
「……どこに?」
翔太が嫌われているのではないかと勘ぐりたくなるほど、声は小さく覇気がない。
「何、どうした?何かあった?」
「お前の声が大きすぎて頭痛がすんだよ」
「ああ、何だそんなことかよ。いつものことじゃん」
確かに、と妙に納得してしまう自分に、いかんいかんと首を横に振る由偉。
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