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「そうだっ。この部屋、天窓あるの気付いてた?」
そう言うと沖君は自分のすぐ隣をポンポンと手で叩いて、私にも寝るようにと催促した。
そのスペースにコロンと横になると、三角形の斜めになった天井の一番高い部分に、大きな天窓があるのが見えた。
そこからは、星が煌めく夜空が広がっていた。
「あっちは南東の方角だからあの赤いのがベテルギウスでその下の一番明るいのがシリウス。で、左にあるのがプロキオンだ。この3つの一等星が作るアステリズムとは…?はい、りつ先輩。」
「冬の大三角だよね。沖君、星座詳しいんだ?」
「あの後ちょっと勉強した。ベデルギウスがあるのがオリオン座でシリウスがおおいぬ座。プロキオンが……」
あの後って…あのクリスマスイブのことだよね。
あの日見れなかったプラネタリウム……
やっと…あの日楽しみにしていたクリスマスデートが叶った気がした。
しばらく二人で寝転がりながら夜空を眺めていると、沖君が私の左手をそっと包んで持ち上げた。
「っんで、これが今の俺からのクリスマスプレゼント。」
私の左手の薬指には、星よりも煌めくダイヤの指輪がはめられていた。
これって……
「りつ先輩……俺と結婚して。」
へっ………
「付き合うって決めたばかりなのに?!」
「もう付き合ったじゃん。10分くらい。」
「短すぎるから!!」
「だって、りつ先輩ってしっかり捕まえとかないとまた逃げそうなんだもん。」
逃げそうって……私ってどんなイメージなの?鳥?
確かに何回か沖君から逃げたけども……
「りつ先輩、は──い、は?照れずに言える?」
もうっ…本当に沖君は年下のくせに……
出会った時から─────……生意気っ!
「はいっ……!」
だ、ダメだ……顔が自然発火しそうだっ!
沖君は笑いながら上半身を起こすと、寝ている私に体を重ねてきた。
この体勢は……あ、あれだよね?
ドキドキしながら身構えていたのだけれど、沖君の顔は寸前のところで止まった。
「今からキスしていい?」
「……き、聞かないでよ。」
「だってりつ先輩、キスは歯磨きしてからとか言いそうだから許可取っとかないと。」
「言わないわよそんなこと!!」
「キスしても、いいですか?」
「だから…聞かないでって。」
「嫌ならキツく言ってよ?でないと俺止まんないよ?」
「だからあっ、してもいいって!!」
「えっ、最後までOK?」
「病院なんだから節度ってもんがあるでしょ!!」
高校生の頃。
なにもわかっていなかった私は理想ばかりが高くて渡り鳥のような恋を夢見ていた。
パートナーはお互いに一生涯一人だけで、その人と死ぬまで添い遂げる。
例え1年の大半が遠距離で連絡が取れなくても、相手のことをひたすら信じて絶海の孤島で再会することを願い旅をする……
切れることのない絆を頼りに、時間と空間を超えてただ一人を愛し続ける──────……
私達は一度は離れ離れになってしまった。
けれど10年の月日を経てようやく……
お互いの一番近い場所で
羽根を休めることが、出来たのだ──────
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