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「りつ先輩はどうなんだよ?」
沖君の声が、列の向こうから聞こえてきた。
私はそれには答えず、人の流れに合わせて進むとそのままゲートをくぐった。
「りつ先輩も良い奴見つけれんのかよ?!」
見えなくなっても、沖君の声がゲートの向こう側から響いてきた。
「クソみたいに真面目で堅物で融通が効かなくて、赤面症なくせに年上だからってわかったように威張り腐るっ…すっげえめんどくせぇ性格しやがって!!」
周りの人達が何事かとザワつく……
こうなることは自分でまいた種なのに、悲しくて涙がボロボロと溢れてきた。
「あんたみたいな女、一番大切に思ってくれる男なんていないからっ!!」
わかってる…沖君に言われなくても……
きっとこんな私はこれからも………
誰からも────────
「──────俺以外にはっ!!!」
………えっ………
突然、体が満天の星空の中に引き寄せられ、宙を舞った。
遥か彼方から照らし出す眩しい太陽の光が、私を温かくフワリと包んだ。
そう、だった……
あの言葉には続きがあったんだ。
あれは私のことを否定した言葉なんかじゃない。
沖君からの
せいいっぱいの愛の告白だったんだ───────
そう思い出した瞬間、渦を巻いた暗闇へと引き落とされた。
「……痛ったあ……」
ベッドから落ちて目が覚めたのはいつぶりだろう。
今日はクリスマスイブ……
沖君の病院に入院する日だ。
窓から差し込む朝日が、今見た夢の内容をよりクリアにさせた……
沖君が最後に言った言葉は愛の告白だった。
それなのに私は、沖君の真剣な気持ちに最後まで向き合おうとしなかった。
あの時の私は、沖君を愛することでそれ以上に傷付くことが怖かったんだ……
「バカだ、私……」
直ぐに引き返せると思ってた。
距離があれば、時間が経てば、会わなければ……
簡単に忘れられるって。
でも現実は、忘れようと思っても忘れることなんて全然出来なかった。
想いは膨らんでいくばかりで……
苦しくて苦しくて……
だから私は、沖君に言われた最後の言葉を都合のいいように切り取ったんだ。
繰り返し繰り返し、酷い言葉を言われたんだと思い込んだ……
「あんたみたいな女、一番大切に思ってくれる男なんていないから。」
……って──────
そうやって、沖君との楽しかった思い出も、好きだったという感情も……クリスマスイブの日も、空港であったことも全部、全部……
全てを真っ黒に
塗りつぶしたんだ────────
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