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「……あんさあ、手術前に俺に言った言葉、もう一回聞きたい。」
沖君はベッドの縁に腰を下ろすと、おねだりするように顔を傾けて聞いてきた。
手術前って……
「……ご、ごめんね。」
「それじゃなくてその後。」
「これからは自分の気持ちに逃げたりしないから……」
改めて言わされると凄く恥ずかしいのだけれど……
「その後。」
……その後?
その後になんか言ったっけ?
私がキョトンとしながら沖君の顔を見ると、カァーッと赤くなった。
「りつ先輩、あんなタイミングで言うから……手術、失敗するとこだったじゃん。」
えっ…えっ……?
その後って…心の中で今も昔も沖君だけが大好きだって思ったけれど。
ま、まさかまさかまさかまさか……!
私っ…それを口に出して言っちゃったの?!
それって……まごうことなき告白じゃないの!!
「ごめん沖君!!まずは空港の時のことをキチンと謝りたかったのっ!それで沖君に許してもらえるなら友達になって退院後も会えたらいいなって思って……ちゃんと順序をふもうと考えてたのに先走ってしまって本当にごめんなさいっ!」
「りつ先輩…相変わらず堅すぎだから。」
だってだってだって……
こういうのって順序がとても大事なことで、間違えたら嫌われちゃうんじゃないの?
「それに空港の時のことは俺もずっと謝りたいと思ってたから気にしなくていいよ。」
えっ……なぜ沖君が謝るの?
「だってあれ、もうはっきり振られてんのに、俺が納得いかなくて暴走しただけじゃん?あの後警備の人になに騒いでんだってすっげえ説教食らったし。」
確かに沖君の声は空港中に響き渡るくらい大きかった。
言葉のわからない外国人の人がテロだと言って騒いでたくらいだ……
「付き合えたとしてもきっと上手くはいかなかった。俺達はまた出会うために、あの時は離れたんだ。」
……沖君……
「だから次にりつ先輩に会ったら良い男になってようと思って、俺すっげぇ頑張ったんだよ。ねえ褒めて?」
沖君のキラキラスマイルが全開だ。
どうしよう……褒めてとか可愛いすぎるんだけどっ。
ギュッとしてヨシヨシって撫でくり回したい!
ああでもまだ告白の返事をもらえてないし、彼女でもないのにそんなことしたら図々しいよね?
でも私のこと待ってるし……これはどこまでが許される範囲なの?わからない!!
本能と理性の間で葛藤していると、沖君の方から私に抱きついてきた。
「ちょっ……お、沖君っ!」
「じっとして。」
沖君の手がうなじの辺りでゴソゴソしたかと思ったらスっと離れていった。
私の首に、星の形のネクレスを残して……
「言っとくけどそれ安モンだから。高一の時に少ないバイト代で買ったやつだから。」
もしかしてこれはあの空港の時の……
一度は受け取ろうと手を伸ばしたあの小さな箱。
こんな可愛いネクレスが入ってたんだ。
10年も……
捨てずに持っていてくれてたんだ───────
「りつ先輩……俺と付き合ってよ。」
あの時と同じセリフ……
あの時と同じ気持ちが込み上げてくる。
嬉しい……
どんなプレゼントよりも嬉しい───────
「……りつ先輩、早く。返事は?」
「返事?」
「は──い、は?」
あーんは?みたいに聞くんだ……
イタズラっ子みたいにワクワクした顔で沖君が返事を待っている。
あの日、これで良かったのかと何度も後悔した。
どうすれば時間を巻き戻せるんだろうと本気で考えた。
苦しくて苦しくて……私は、自分勝手に記憶を書き換えてしまった。
10年経ってやり直すことが出来るだなんて、思いもしなかった……
「はい。お願いしますっ。」
「やっっっとOKしてもらえた────っ!」
沖君は勢いよくバフっと布団に寝転がると、両手を広げて思いっきり伸びをした。
「すっっっげえ嬉し──────いっ!!」
沖君…ありがとう。
どうにかなっちゃいそうなくらい嬉しいのは私の方だよ……
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