年下男子が生意気です。再会

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レントゲンを撮ってもらうと、炎症部分に完全に埋没している親知らずがあることがわかった。 この痛さはその親知らずの周囲にどこからか細菌が入り込んでしまったことが原因のようだった。 とりあえずは鎮痛剤と抗生物質を出してくれるらしいが、親知らずがある限りまた繰り返すかもしれないのだという…… 「じゃあ今すぐ抜いてもらえますか?また仕事を休むわけにも行かないので。」 親知らずは学生の頃に抜いた経験がある。 それは半分生えてきていた歯だったが、ポンと簡単に抜けた。 今回もそんな感じだと思ったのだが…… 「抜歯だと、この場合入院になりますね。」 「にゅ、入院?!」 「ええ、全身麻酔による手術となりますので、一泊二日入院して頂きます。」 「たかが歯を一本抜くのにですか?!」 先生の目の奥が鋭くギラりと光った。 「へ〜…たかがねえ……親知らず、舐めてます?」 先生が親知らずについて熱く語りだした。 私の親知らずは顎骨の中に埋没していて横を向き、さらには太い神経にも接しているため、かなりやっかいな代物なのだという…… ポンと抜くなどまず不可能で、まずは歯肉粘膜を切開して剥離し、ドリルで顎の骨を削ったあと、歯を分割して摘出することになる。 手術には一時間ほどかかり、その後も出血や痛みや腫れが伴うため、点滴による薬の投与をして様子を見た方が安心なのだ。 まさかこんな大事になるだなんて…… 「今ならちょうどキャンセルが出たので来週に手術の予約を入れれますが、どうされますか?」 来週は海外出張がある。 でもこんな状態で飛行機になんて乗れるのだろうか? 海外でまた痛んできたらどうしよう…… あれこれと考えると不安になってきた。 悩んでいると、腫れた左頬に先生の手がそっと触れた。 「大丈夫ですよ…寝てる間に終わっているし、私は手術が上手いので。」 別に怖がっているわけではないのだけれど、先生の包み込むような優しさに胸がトクンと高鳴った。 私の頬を優しく撫でていた先生の指が耳たぶに触れ、そのまま首筋をなぞり始めた。 これは…触診なのだろうか……? 手つきが妙にやらしくてゾクゾクするんだけど…… 私の反応を楽しそうに見つめる先生の瞳にあおられ、顔が茹でダコ状態になってしまった。 「あの先生っ、ちょっと手を……」 「相変わらずですね。りつ先輩。」 えっ……… 「すぐ真っ赤になるとこ、変わってない。」 なに……? この人、誰?? 先生はキョトンする私に、ポケットに閉まってあった名札を見せてきた。 それには歯科医師 (おき) (まこと) と書かれていた。 「10年ぶりだね。元気だった?」 そう言ってマスクを外した顔は、私の記憶より幾分大人びた顔立ちになっていた。 「……お…きく…ん……?」 「そうだよ。全然気付いてくれないから忘れられてるのかと思った。」 ──────忘れるわけがない。 本当に…あの、沖君なの………? 随分と背が伸びている…… 琥珀色の瞳の色は同じだけれど、あの頃とは受ける印象がまるで違う。 年下の生意気な男の子だったのに、この10年で人ってこんなにも変わるもんなんだ…… 今目の前にいる沖君は紳士的な青年歯科医師にしか見えなかった。 「りつ先輩、メガネ止めたんですね。」 そう言うとおどけたようにペロッと舌を出した。 「可愛かったからまた見せてね。Hしたあとにでも。」 こ、こいつ…… なんも変わってないっ────────!! 「か、帰るっ!!」 「おいおい。どうすんの歯の治療?」 「近所のおばちゃんとこでやってもらう!!」 「その辺の歯医者で手術は無理だから。下手な口腔外科に当たったら神経切られるよ?」 「ならいいよもう!放っておく!!」 「今回は智歯周囲炎(ちししゅういえん)だけで済んだけど、炎症が広がれば重症化する場合だってあるんだぞ?」 沖君いわく、頬部蜂窩織炎(ほうかしきえん)にまで発展すると頸部の膨張によって呼吸困難に陥るなどの重篤な症状を引き起こすこともあるらしい。 その後も、歳をとってから親知らずを抜歯することへのリスクなど、散々恐ろしいことを言うもんだから心が折れた。 来週の専務の海外出張へのお供は誰かに代わってもらうしかない…… 「腫れが引かないことには手術は出来ませんので、しばらくは酒と男は禁止でよろしくお願いしますね。」 営業スマイルでニッコリと笑って言われた。 こ、コノヤロウ…… わかってて男とか言う? ああ、もう……… あの頃の記憶が、嫌でも蘇ってくる────── ※親知らずは必ずしもトラブルを引き起こすものではありませんが、正常に生えてくるものはまれです。 完全に埋没している親知らずは自分ではわかりませんのでレントゲンで調べてみましょう。 抜くか抜かないかは、お医者様と相談してね( ´ᐞ` )
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