年下男子が生意気です。約束

1/3

218人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

年下男子が生意気です。約束

終わりのSHRの後、紗奈のクラスへと向かおうとした足が止まった。 そう言えば紗奈…彼氏が出来たとか言ってたな。 野球部だったか弓道部だったか、タクマだったかタクワンだったか…… 昨日真夜中に電話してきて嬉しそうに話してたけどなんだったっけな。 まあまたすぐに別れるだろうから思い出す必要もないか。 しばらくは一人で帰ることになるけれど、読みかけの小説があるからちょうど良かった。 今日は生徒会活動も予備校もない。 こんなに早く家に帰れるのは久しぶりだった。 「マコ〜ゲーセン行こうぜゲーセン。」 「ダメー!マコはうちらとカラオケ行く約束してるから!」 「違うよ〜。マコちんは今日は私とデートすんの〜!」 靴を履き替えていると一年生の下足室の方から騒がしい声が聞こえてきた。 マコという子はえらく人気があるようだ。 そういえばあの生意気な年下男子の名前って…… 「りつ先輩一人なの?俺もちょうど今一人なんだ〜っ。」 下足室を出るなり沖君から呼び止められた。 沖君の下の名前は(まこと)だ。 一人って……あなたのすぐ後ろで私を恨みがましく見ている女の子達は背後霊かなにかなのだろうか…… 沖君は駅へと歩いていく私に、ずっとくっついてきた。 「一人もん同士遊びに行かない?」 「親から寄り道は禁止されてるの。」 「じゃあLINE教えてよ。夜にメールする。」 「スマホは持たされてないわ。勉強の邪魔になるから。」 「もしかして男女交際は一切ダメとか言われてる?」 「結婚を考えている人となら良いと言われてるわ。」 「なんかりつ先輩の親ってさ〜……」 ああまただ。 私の親の話をすると大抵の人は引く。 私に同情の言葉をかけてきたり、有り得ない等と親を悪く言ってきたりするのだ。 私は親には凄く感謝しているのに…… 「りつ先輩のこと、めっちゃ大切に思ってない?」 ──────なっ………? 「高三の娘のことをそこまで心配してくれる親って、なかなかいないよねっ。」 なによ……年下のくせに。わかったように言ってくれちゃって…… そんな風に返してきた人は初めてだった。 「りつ先輩ってどの駅で降りんの?送るよ。」 「送らなくていいから。」 なんなのだろう…… この胸のフワフワとしたこしょばい感じは。 沖君は一緒に電車に乗り込むと当たり前のように私の横に座った。 いつもならもっと強く言って追っ払ってやるのに、彼といるとどうも調子が狂うようだ。 無視を決め込んで小説を読んでいる私に、構わず話しかけてきた。 「じゃあ当てたら送らせてね。下田駅?三国駅?茨木駅?」 正解の駅名を言われたところで、カァーっと赤く反応してしまった。 「桜坂駅か!わかりやすっ!」 人の赤面症を嘘発見器みたいに使わないでもらいたい。 「ちょっと沖君。いい加減に……」 「俺もちょうど桜坂に用事があったんだ〜。りつ先輩付き合ってくれます?」 付き合ってって……なんで私がっ? 一体なにを考えているのだろうか…… どうやら変な子に懐かれてしまったようだ。 「あ、この場合の付き合うは買い物にって意味ね?」 「それくらいわかってるわよ!!」 沖君は甘えるように私の肩にコロンと頭を乗せてきた。 「俺は男女の付き合うでも全然OKなんだけどな〜。」 髪から漂う甘い香りにますます顔が赤くなる…… 日頃から男を避けている私には刺激が強すぎだ。 「沖君離れて。こういうのは彼女にすべきことよ。」 「りつ先輩、俺の彼女になってくれるのっ?」 なぜそうなる。 「私に六人目になれっていうの?冗談じゃないわ。」 「あ〜それなら全部別れた。」 ……うん?別れた? いや、そもそも複数の女性と付き合うこと自体がおかしいから、当然といえば当然なんだけど…… 「どういう心境の変化なの?」 「う〜ん…なんか面倒臭くなった。」 「相手の女性に対して失礼だとは思わないのっ?」 「今は良いお友達だけど?てか、りつ先輩堅いから。」 これは私の考え方が堅いのか?全く理解出来ないっ! イライラする私の横で沖君は、先程からチラ見してきていたセーラー服姿の女子高生達とLINE交換をしたり、後から乗車してきたおばあさんにどうぞと席を譲ってあげたりしていた。 こんなに掴みどころのない子は初めてだ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

218人が本棚に入れています
本棚に追加