年下男子が生意気です。約束

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一緒に下車した沖君は、駅前のクレープ屋さんの前を通ると食べたいと言い出した。 あると言っていた用事はどこにいったんだろう…… 「りつ先輩のも奢るよ。なにが好き?」 「私はいらない。」 「じゃあ当てたら食べてね。イチゴクリーム?塩キャラメル?チョコレート?」 「ちょっ…沖君っ。」 「黒蜜きなこか!わかりやすっ!」 だから人の赤面症を嘘発見器みたいに使わないでもらいたいんだって!! 結局家まで歩きながら食べることになってしまった。 私の黒蜜きなこを頂きと言って横から一口食べられてしまった。 いいともなんとも言ってないのに…… どう育てたらこんな自由な子に育つんだろ…… 「沖君の親はどんな人なの?」 「一言で言えば放任主義。」 思った通りの答えが返ってきた。 子供はのびのびと育てる主義のご両親なのだろうと思ったのだが…… 「俺にだけだけどね。家族の中では俺って空気?みたいな存在だし……」 触れてはいけない質問だったのだろうか。 透き通るような琥珀色の瞳が暗く陰ったように見えた。 「沖君が空気ってなに?もっとわかりやすく言ってくれる?」 「……凄いなりつ先輩。そこ掘り下げて聞くんだ。」 沖君の親戚はみんな高学歴らしく、二つ上の兄はとても優秀で県内一の私立の進学校に通い、東大を目指しているのだという。 自分は出来損ないの弟で小さな頃から比べられ、今では親からも諦められているらしい。 うちの学校だってそれなりに偏差値の高い公立高校なのに…… 「沖君いい?やりたいことも秀でた才能もないのなら、やはり勉強はしとくべきよ。未来の自分のために。」 「……凄いなりつ先輩。普通ここは優しい言葉をかけるとこなのに追い込むんだ?容赦ないな〜。」 沖君は顔では笑っていたけれど、どこか苦しそうに見えた。 もしかして私の親のことをああいう風に言ってくれたのは、自分があまり親からは大切に思われていないと感じでいるからなのだろうか…… だとしたら…… 私が以前、あなただけを一番に大切に思ってくれる女性に早く出会えるといいわねと言った言葉は、とても無神経だったかも知れない。 自分の感覚が人とはズレてしまっていることはわかっている。 「……沖君ごめんなさい。言いすぎたわ。」 「えっ、なに急に?!」 正しいことだとしてもそれが人を傷付けてしまうことがあると、何度も学んだはずなのに…… シュンとする私を見て、沖君の頬が赤くなった。 「なぜ沖君が赤くなるの?風邪?」 「いや、ちょっと……ギャップ萌え。全然平気なんで、大丈夫です……」 クレープを食べ終わる頃にちょうど家に着いた。 とても美味しかったと、沖君に深々と頭を下げてお礼を言った。 「りつ先輩。俺がいつか親に認められる日が来たらご褒美くれる?」 「……ご褒美?」 沖君が眩しいくらいの笑顔で小指を差し出してきた。 「そう、ご褒美。とびきりのやつもらうから!」 そして私達は 小指を重ねて指切りげんまんをしたんだ────── 沖君のあのキラキラした笑顔だけは、今でも私の中で眩いほどに輝いていて……… ──────あの約束は 今でも有効だったりするのだろうか……? 6cb42ab5-b8ec-466b-8aa6-fdc35fb70b60
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