『湖水の町』

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昼食を済ませて外に飛び出すと、朝方の雨がウソの様に上がり、夏の陽射し がジリジリと肌を射す。あたり一面から土の匂いが立つている。 哲也との待ち合わせはいつもの郵便局前だ。 僕らの住む町は、地方の田舎町とは言わないが、田舎に隣接する新興住宅地と いったところだろう。 バスに乗り15分も走れば、緑の多い山間の景色が拡がるような所だ。 僕らは郵便局前のバス停で落ち合うと町営プールまで徒歩で向かう。 歩いて15分程度の距離だ。 歩き始めると哲也が口を開く「壮太、夏休みの宿題、進んでる?」 「まあまあ、かな?」 正直なところ、休みも半分を過ぎて、与えられたプリントと提出物にひと通り手を付けている程度だ。とは言うものの、受験を控えた中学3年生の夏休みの宿題はそれ程多くはない。問題は自由研究の発表だ。 「俺も同じかな。自由研究は何をやるの?」 「それなんだけど、まだ何にも手をつけてないし、決めてないんだ。哲也はどう。」 「俺?・・・・同じくだよ。」 「昨日の夜も、布団に入ってから考えてたら夢にまで出て来たよ。」 「じゃあさあ、二人でアイデア出して一緒にやらないか?」 「いいね!それ」 「二人でやれば何とかなるんじゃない!」 「共同研究ってやつだね。いいね決まりだ。これで今日はゆっくり眠れるよ」 夏休みのプールは大盛況で、入り口には小さなテントを張った屋台まで出ていた。中では小さい子供達の叫び声と水に反射する光の粒が溢れている。 昨夜から自由研究の課題の事が頭から離れなかった僕は、哲也のお陰で安心しきってしまい、まだ何も決まって無い事など気にも留めず、たっぷり3時間 プールの水の中ではしゃいで過ごしていた。 その帰り道、哲也はふと我に返った様子で「さっきの話の続きだけどさぁー」 「突然、どうしたんだよ。どの話の続き?」 「自由研究のテーマだよ」 「あー、そうだね。どうしようか?」 「俺、思ったんだけど・・」 「うん」 「父ちゃんに聞いた話なんだけども、北山の向こうに大きなダムがあるのは知てるだろう・・・」 「うん、知てるよ」 「あのダムの底には昔、町があって沢山の人が住んでいたんだって。 今でも水が少なくなると、底に沈んだ建物が現れるらしいんだ。」 「すげー、ミステリアス!」 僕はテレビで見た、アトランティスやムー大陸を想像した。 「どう、行ってみない?」 「凄く面白そう、行きたい!決まり。自由研究のテーマはそれだ。」 二人して夢中で話しているうちに、郵便局まで戻っている。 家につく頃には、プールで濡れた髪の毛もすっかり乾いていた。
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