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男が肩を落としたオーナーを怒鳴りつけた。
「きっちり落とし前をつけてもらうからな!」
「うわ……うわ……」
命までとられそうな迫力に後ずさりするオーナー。さっきの恩返しで、今度はボクがオーナーを助ける番だ。襟首を掴もうとする男と、逃げるオーナーの間に割って入った。
「待ってください! 落ち着いて! 肝心なのはそこなんです。これは、店のせいではないと思います」
「ここはフグ店だろ。フグ毒に当たったのに、店のせいじゃないってどういうことだ!」
女がボクに文句を言った。
「責任逃れしようたって、そうはいかないんだからね! 話を聞いていると、この店の常連のようじゃない。恣意的に味方しているんじゃないの?」
「では、なぜボクや他の客、何より、あなた自身に異常が起きないんでしょう。同じ築本コースを食べたんだ。使った食材も同じだ」
「私は鍋をまだ食べていなかったの。先にちっくんが食べて倒れたから、手を付けなかった」
「夢子!」
「ああ、えーと、彼が鍋を食べて倒れたのよ」
男は、「ちっくん」呼びがさすがに恥ずかしいようだった。
「それも変です」
「どこが?」
「テトロドトキシンは、食べてから中毒の症状が現れるまで20分から30分ほどかかるんです。てっちりを食べてすぐに倒れるはずがない。口にしたのは少なくとも20分以上前だ」
「20分前というと……」
「鍋を火にかけた頃です。二人はそれまでに出された、皮刺し、てっさ、唐揚げを同じ皿から食べていましたよね」
「食べたけど……」
「20分前に起きたことを、ここにいる誰もがよく覚えている」
「ああ、そうだね」「よく覚えている」
ちっくんがボクに向かって怒鳴ってきて、暴れて、オーナーに止められた。
おそらく全員がそれを思い浮かべたはずだ。
「20分前に料理以外でちっくんだけが口にしたもの……」
女がボクの言葉にハッとして見たその先には、男のグラスがあった。ボクと女は、ほぼ同時に体を前に出して手を伸ばした。
「あ!」
ギリギリの攻防でボクが先制。ちっくんが使っていたビールのグラスを取り上げた。
「ちょっと、やめてよ!」
女はボクの手からグラスを取り上げようとしたが届かなかった。
「この中にテトロドトキシンが入っているはずだ。オーナー、警察を呼んでください」
「ああ!」
女は頭を抱えた。
「夢子、どういうことだよ」
ちっくんがショックを受けた顔で夢子を問い詰めた。
「知らない! この人が変なのよ!」
否定する女をさらにボクが追い詰めた。
「あなたが20分間てっちりに手をつけなかったことが不自然なんですよ。なぜ食べなかったんですか?」
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