死にたいボクが探偵になったわけ

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 周囲がざわざわした。 「え? どういうこと?」「毒が入っているって、知っていたってこと?」 「そうじゃない。てっちりに毒は入っていなかった。だけど、そういう風に見せかけるために食べないようにしたんだ」 「店に罪を(なす)り付けるつもりだったのか!」  全員が疑惑の目を女に向けた。 「君はボクらからいやらしい目で見られているとでっちあげて、ちっくんを煽った。彼の性格なら騒ぎを起こすと分かっていたからだ。彼がテーブルから目を離し、店員と客の意識も騒ぎに集中させた。その隙に君はビールにテトロドトキシンを混入して、戻ってきた彼に何食わぬ顔で飲ませることができた」 「ぐ……」 「てっちりにもテトロドトキシンを混入する予定だったんじゃないか? それで完全に店の責任にできる。まだどこかに隠し持っているかもしれないな」  それを聞いたちっくんが、夢子のバッグを掴んで中を開けると、開封済みと未開封の2つの薬包紙が出てきた。 「夢子、これは何だ!」  証拠を突き付けられた女は、さすがに観念して開き直った。 「……だって、だって、だって! 死んでほしかったのよ! いつも暴力を振るうから!」 「ええ!」  女の怒りがボクに向かった。 「なんで助けちゃったのよ! 男のくせに男にキスして、ばっかじゃないの!」 「ただの人工呼吸だよ」 「もっとためらいなさいよ! 時間がもうちょっとかかれば死んだのに!」  ボクが躊躇していれば蘇生は間に合わなかった。ためらうことなくマウス・トゥ・マウスでやったもんだから、彼女にしてみればとんだ計算違いとなったようだった。憤まんやるかたない様子で八つ当たりが止まらない。 「バカバカ! 邪魔して! フグ店でフグに当たって死んだなら、警察にも怪しまれないと思ったのにい!」 「店に迷惑だろう!」 「うるさーい! 私に説教すんな!」 「いい加減にしろ!」  最後にちっくんが、夢子の首根っこを押さえて力づくで黙らせたのだった。  救急車と警察が到着した。ちっくんは検査のために運ばれていき、夢子は警察に連行された。  ボクは、ちっくんが使っていたグラスを証拠品として鑑識に提出。  薬液で調べると、ビールから出るはずのないフグ毒、テトロドトキシンが出てきた。  すべてはボクの推理通りだった。  お店の名誉はボクによって守られた。  オーナーは感謝感激。謝礼として、ボクらの食事代金を全額無料にしてくれた。
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