魅惑の未亡人

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 入れ替わるようにカゲハルがやってきた。少しだけ申し訳なさそうにしていた。 「よう……」 「カゲハル……、今までどこに行っていたんだ?」 「すまない!」  カゲハルは、ボクの顔を見るなり両手を合わせて平謝りした。 「何が?」 「事件が見つからなかった」  ボクのために事件を探してくると言ったものの、見つからなくて帰りにくくなっていたようだった。 「見つかるまで、お前に合わせる顔がないと思って」 「ボクは別に構わないんだけど」 「北は北海道、南は沖縄まで、日本中を探して回ったがどこにもなく……」 「またまた大げさな。そんな時間はなかったはずだぞ」 「本当だって。ほら、お土産」  カゲハルが笹かまぼこを出したので驚いた。 「仙台まで行ったの?」 「そこのスーパー」 「近!」 「本当は、北は北区から、南は南区まで」 「さいたま市の中でグルグルしていただけだろ!」  やっぱり全国は行っていなかったようだ。 「変な気を遣わなくていいよ。事件なら、向こうから飛び込んできたからさ」 「どういうこと?」  ボクらは笹かまぼこを食べながら依頼について話すことにした。  ボクは、トースターで追い焼きした笹かまぼこにマヨネーズと七味唐辛子を振り掛け、カゲハルは、ワサビ醤油だ。 「笹かまぼこにはマヨと七味だろ」 「いーや。正統派はワサビ醤油だ」  お互いにこっちが旨いとけん制しあった。 「やっぱマヨだね。マヨに混ざる七味のピリ辛が最高に合う」 「ワサビのつーんと鼻を抜ける刺激と醤油の旨さを知らぬとは言わせない」 「こっちを食べてみろよ」 「お前も食べてみろよ」  意地を張ってお互いに食べさせあい、笹かまぼこはどうやって食べても旨いという結論に落ち着いた。 「で、依頼ってのはどんな事件なんだ?」 「すぐそこに住んでいる千代さんが、入浴中に心臓発作で溺死していたのをボクが発見した」 「ああ、あの人。亡くなったの? トキオが第一発見者?」 「正確に言うと、ボクじゃないんだ」  信金マンの不審な動きから千代さんの遺体発見までと、松本英恵が依頼に来た経緯を話した。 「どうしても千代さんの死が気になった義妹の松本英恵さんが、どこかの探偵を探して依頼しようかと思っていたところに、たまたま看板が目に留まったらしい」  ダメ元でも掲げてみるもんだとボクは思ったよ。  カゲハルは腕を組んで考えた。 「なるほどね。果たして、溺死は事故だったのか、それとも事件だったのか……」 「二人で解決しようよ」 「もちろんだ!」  カゲハルは、張り切っていた。
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