78人が本棚に入れています
本棚に追加
入れ替わるようにカゲハルがやってきた。少しだけ申し訳なさそうにしていた。
「よう……」
「カゲハル……、今までどこに行っていたんだ?」
「すまない!」
カゲハルは、ボクの顔を見るなり両手を合わせて平謝りした。
「何が?」
「事件が見つからなかった」
ボクのために事件を探してくると言ったものの、見つからなくて帰りにくくなっていたようだった。
「見つかるまで、お前に合わせる顔がないと思って」
「ボクは別に構わないんだけど」
「北は北海道、南は沖縄まで、日本中を探して回ったがどこにもなく……」
「またまた大げさな。そんな時間はなかったはずだぞ」
「本当だって。ほら、お土産」
カゲハルが笹かまぼこを出したので驚いた。
「仙台まで行ったの?」
「そこのスーパー」
「近!」
「本当は、北は北区から、南は南区まで」
「さいたま市の中でグルグルしていただけだろ!」
やっぱり全国は行っていなかったようだ。
「変な気を遣わなくていいよ。事件なら、向こうから飛び込んできたからさ」
「どういうこと?」
ボクらは笹かまぼこを食べながら依頼について話すことにした。
ボクは、トースターで追い焼きした笹かまぼこにマヨネーズと七味唐辛子を振り掛け、カゲハルは、ワサビ醤油だ。
「笹かまぼこにはマヨと七味だろ」
「いーや。正統派はワサビ醤油だ」
お互いにこっちが旨いとけん制しあった。
「やっぱマヨだね。マヨに混ざる七味のピリ辛が最高に合う」
「ワサビのつーんと鼻を抜ける刺激と醤油の旨さを知らぬとは言わせない」
「こっちを食べてみろよ」
「お前も食べてみろよ」
意地を張ってお互いに食べさせあい、笹かまぼこはどうやって食べても旨いという結論に落ち着いた。
「で、依頼ってのはどんな事件なんだ?」
「すぐそこに住んでいる千代さんが、入浴中に心臓発作で溺死していたのをボクが発見した」
「ああ、あの人。亡くなったの? トキオが第一発見者?」
「正確に言うと、ボクじゃないんだ」
信金マンの不審な動きから千代さんの遺体発見までと、松本英恵が依頼に来た経緯を話した。
「どうしても千代さんの死が気になった義妹の松本英恵さんが、どこかの探偵を探して依頼しようかと思っていたところに、たまたま看板が目に留まったらしい」
ダメ元でも掲げてみるもんだとボクは思ったよ。
カゲハルは腕を組んで考えた。
「なるほどね。果たして、溺死は事故だったのか、それとも事件だったのか……」
「二人で解決しようよ」
「もちろんだ!」
カゲハルは、張り切っていた。
最初のコメントを投稿しよう!