魅惑の未亡人

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「まずは現場検証だけど」 「トキオは家の中を見たんだろ? どうだった? 何か気付いたことはあったか?」 「いろいろね」  ボクは千代さんの家で撮影した動画があることを言った。 「警察にはあの家で不審なものを見つけられていないはずだ。あれば事件になっている」 「オレらが見つけたら大手柄だな」  カゲハルの中では、事件解決で賞賛される自分たちの晴れ姿がもう浮かんでいるようだ。  ボクとカゲハルは、一緒に千代さんの家で撮影した動画を視聴して不審な点がないか確認した。  玄関を開けて入ると、千代さんの靴やサンダルが何足か置かれている。  ボクは早速映像を止めた。 「まずはここ。気になることがあった」 「どこ?」 「鍵だ。玄関に鍵が掛かっていなかった」  千代さんが出入りする際には、鍵を開け閉めする音が必ず聴こえていた。  だけどこの日は施錠がされていなかった。信金マンも何事もなく入っていったので、無施錠だったことは確かだ。 「信金マンが来るから開けていたとか」 「亡くなったのが前日の夜なのだから、それはない」 「そうか。夜、風呂に入るのに鍵を掛けないのは考えられないな」  女性の一人暮らし。信金マンが来るときは鍵を開けていたとしても、それは朝だけ。夜中に開けていたのは不自然。 「千代さんがまだ生きていた時に誰か来て、千代さんが死んでから出て行ったなら、無施錠も考えられる」 「もし誰かに殺されたとしたら、なぜ犯人は鍵を掛けて逃げなかったんだ?」 「単純に気が動転して忘れた。鍵が見つからなかった。誰かに千代さんの遺体を発見させるためにわざと掛けなかった。このどれかじゃないかな」  再生を続けた。  和室に入ると、テレビ、こたつに座椅子が一つ置かれていた。  座椅子はテレビの正面に向かって位置している。千代さんが日常的に使っていたということだろう。  こたつの上には何も置かれていない。 「何もないのが、却って不自然じゃないか?」 「几帳面なら何も置かないだろう。犯人が綺麗に片付ける目的が考えられない」 「来客があったことを知られないために、犯人が片付けたかもしれない」  客間には来客用のソファーセットにローテーブル。飾り棚には洋酒の瓶とグラスが綺麗に並んでいた。 「洋酒の並びも高さ順だし、グラスも綺麗でペアになっている。これだけ見ても、千代さんがとても几帳面な性格をしていたとわかるね」 「それなら物が乱雑に置かれていないのも普通か」  その代わり、鍵を掛け忘れたことも考えにくくなった。鍵は意図的に開けられていたのだ。
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