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台所には、千代さんが使ったらしき湯呑みだけがシンクに置かれていた。
「一人暮らしなのに湯吞みが二つあれば、来客の存在を匂わせるけど……」
「完全に一人だね」
映像はその後も家の中を映して回った。
おじさんの遺品、仏壇、古い婚礼ダンス、押し入れなど。どこを見ても特に気になるところはなかった。
争った形跡や荒らされた様子も全くなく、すべてが整然としている。
「家の中に異変は見当たらないだろ?」
「争った形跡も、物色の跡もない。物取り、強盗の類じゃなさそうだな」
「科学捜査を行った警察でも事件性はないとみている」
「だけど、親戚は息子を疑っているんだな」
映像はバスルームに移動。
最初のドアを開けると広めの脱衣室となる。洗面台とドラム式全自動洗濯乾燥機が映った。
奥にあるもう一つドアを開けると、目に飛び込む千代さんの遺体。
そこで映像が乱れて終わった。
「さすがに動揺して、これ以上撮影を続けられなかった」
「気持ちは分かる。故人の尊厳もあるからな。賢明な判断だ」
ボクは、あの時に気付いた違和感を説明しようと映像を脱衣室に戻した。
「この映像で、変なところはあると思う?」
「変なところ?」
カゲハルは、いろんなところを拡大して探した。
スマホ動画の便利なところは、タッチすればそこを拡大できることだろう。
しばらく見ていたカゲハルにも違和感の原因が分かった。
「脱いだ服が見当たらない」
「そういうと思った。ボクもそう思って衣服を捜してみた。洗濯機の中に服一式があったから、多分それだと思う」
「風呂を出てから着る服もないが?」
「なかったね」
「変だろう。裸じゃ風邪ひくぞ」
「バスタオルならあるから、これを使うのかも」
大判のバスタオルが畳んで棚に置かれていた。
一人暮らしなら、バスタオル一枚で家の中をウロウロしても問題ない。
「映像は以上だ」
「鍵を除いて、事件性は見受けられないな」
結論は警察と同じになったが、これでは依頼人を納得させられない。
「今度は息子を調べてみるか」
「よっしゃ! 聞き込みだ!」
警察はボクの証言から信金マンは調べたが、博太郎まで調べていないだろう。
ボクとカゲハルで手分けして、博太郎について聞き込みを開始。
数日後、集めた情報を持ち寄った。
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