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ボクは博太郎の自宅近所を、カゲハルは勤務先を担当した。
ボクらは残っていた笹かまぼこを食べながら話した。
「隣人によると、ボクが千代さんの遺体を発見した20日の前の日は沖縄に行っていたらしい。21日に博太郎がやってきて、お土産のちんすこうを渡されたと言っていた。スーパーで買ったのでなければ事実だろう」
「それはオレも勤務先で聞いた。有休取って優雅に観光旅行に行っていたと」『優雅』という言葉の選択に、同僚の皮肉が込められていると感じた。
「隣家は夫婦と幼児の三人家庭。子供が騒いでうるさいと苦情を言ってくる博太郎がお土産をくれたので、とても驚いたそうだ。このことからも、借金まみれでいつも怒りを抱えた博太郎が、近所づきあいでお土産を渡すことが奇異に感じるね」
「何らかの意図がありそうだな」
「千代さんが発見された日が20日。亡くなったのは19日。博太郎は18日から21日まで沖縄となると、アリバイは成立する」
亡くなった日を避けるように遠方にいたのは、見事としか言いようがない。
「博太郎の母親が亡くなったことは、ボクから聞いて初めて知ったと驚いていた。おどおどしていたとか、母の死を悲しんでいたとかもなく、いつもと変わらない様子だったそうだ」
「その時点では、博太郎も知らなかったということかもな。知っていたら、のんきにお土産を渡すどころじゃないはず」
「カゲハルの方は?」
「勤め先の同僚に聞いたけど、18日から21日まで有休だったと証言した。お土産もちんすこうを貰ったそうだ」
裏付けが取れた。博太郎に犯行は無理だとボクらは思った。
「怪しむところがないな」
依頼人は落胆するだろうが、無理やり犯人にするわけにもいかない。
「そうとわかったら、これで終わり!」
カゲハルは、喉が渇いたと湯吞みにお茶を淹れた。
濃い黄色が縁取るようにマヨネーズが硬くなりかけている。
「マヨネーズってすぐ乾くよな」
「……」
「トキオ?」
浮かない顔をしているボクにカゲハルが気付いた。
「まだ何か気になるのか?」
「納得いかないんだ。なんかさあ、用意が良すぎるんだよ。完璧なんだもの」
「たまたまとしかいいようがないだろ」
「計ったように留守したようにしか思えない。まるで自分が疑われると知っていて、近くにいないでおいたかのようだ。これは、千代さんの死を予見していたとは思えないか?」
「計画的な犯行だということか?」
「突発的に千代さんを殺してしまったなら、事前に休みを申請し、旅行の手配などできないだろう。だけど、お金に困っている人が四日間も沖縄に行くかな。そんな金があれば、少しでも返済に回そうとしないのかな」
「普通はそうだろうけど、そういう人間じゃないんだろ。世の中にはいろんな人がいる」
「職場の人は、他に何か言っていなかった?」
「彼は旅行好きだったのかと聞いたところ、そんなことはないと言われた。それだけじゃなく、『そんな余裕があるなら、他に使うところがあるだろう』とぼやいていた。どういうことかと聞いたら、『いろんな人から金を借りているからそう思うんだ』と。給料日前になると借りて回り、給料日になると返済して回る。それでも返しきれず、借金がどんどん膨れ上がっているらしい」
「職場でも借金していたんだな」
「お土産を貰っても、貸した金のことを考えると全然嬉しくないと言っていた。本人にも旅行の金を返済に回せよと言ったら、近々全部返すから、今回は見逃してくれって言われたって」
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